大塚美穂
自身で呼吸する機能が喪失または低下した状態になった場合、人工呼吸器が必要となります。人工呼吸器は呼吸を助けるための医療機器で、肺への空気の出入りを補助するものです。交通事故などによる脊髄損傷や心肺停止後に生じた低酸素脳症、難病である筋萎縮性側索硬化症などにより、永続的に人工呼吸器が必要となることもあります。
人工呼吸器というと非常に医療依存度が高く、装着している患者さんは動くことができないのではないかとイメージされる方もいらっしゃると思います。しかし呼吸ができないだけなので、身体に問題がなければ車いすに乗って散歩をしたり、口から食事をしたり、お風呂に入ったりすることも十分可能です。一方で人工呼吸器を長期間装着していると徐々に、肺に空気を送り込む圧力や空気の量を調節する必要が生じることがあります。この原因として考えられているのが、「肺コンプライアンス」の低下です。肺コンプライアンスとは肺の膨らみやすさの指標で、低いと膨らみにくく、高いと膨らみやすい状態を指します。
肺は風船のように空気で膨らみ、通常は横隔膜という筋肉が上下に動くことで胸の中で“陰圧”と“陽圧”という状況を作り出し、空気を出し入れしています。これを陰圧換気といいます。しかし人工呼吸器が必要な方はこの陰圧換気が行えず、機械で空気を送りこむ陽圧換気で呼吸をしています。肺コンプライアンスが低下すると、肺が膨らみにくくなり、この陽圧換気を「強く」行う必要が出てきます。また呼吸に苦しさを感じやすかったり、痰が出しにくくなったり、食事を取りにくくなったりと生活に支障をきたすことが多くなってしまいます。
現在私は理学療法士として、永続的に人工呼吸器が必要となった方々に対してのリハビリテーションを行っています。経験的にも、経年的に陽圧換気の圧力(空気を送り込む強さ)を上げていく必要がある方が多いと感じています。このようななか、人工呼吸器を長期装着している方々が、少しでも呼吸が楽になり、人工呼吸器を付けていること以外は健常と変わらない生活を送れるようになれば良いなと考えるようになりました。先行研究では長期間の人工呼吸器の装着により肺コンプライアンスが低下するという報告があるものの、その原因は特定されていません。肺コンプライアンスの低下に対するリハビリテーション法の開発に向けて、まずはその原因を明らかにしたいと考えています。
人工呼吸器を長期間(主に3カ月以上)装着された方を対象として肺の機能を調査した先行研究は非常に少なく、現状わかっていることは、加齢と体格が肺の機能に影響を与えているのではないかということです。今回のプロジェクトでは、肺コンプライアンス低下に影響を及ぼす要因として大きく次の3つの仮説を立てて研究を実施します。これら3つのいずれか、またはすべてが、肺コンプライアンス低下の原因になるのではないかと考えています。
1.自発呼吸の程度
自発呼吸とは、その名の通り自身で呼吸する能力です。人工呼吸器の装着が必要となる患者さんはこの能力が低下していますが、その程度はさまざまです。自身で呼吸する力が減少していると肺が膨らみにくい場合があることが動物実験で認められており、私たち人間においても、どれだけ自身で呼吸することができるかが肺コンプライアンスに影響している可能性があると考えています。
2.無気肺や胸水貯留
無気肺とは、肺そのものの疾患や気道の閉塞などにより、肺胞(肺が空気を取り込んで膨らむ組織)が潰れてしまう状態を指します。また胸水とは、摩擦を減らすため、肺と肺を包む胸膜という組織の間に存在している体液を指します。この胸水が、炎症や心不全などさまざまな影響から過剰に増加してしまい、胸水貯留という状況を呈することがあります。無気肺や胸水貯留は肺の膨らみを阻害することが予想されます。急性期治療では肺コンプライアンスに対する両者の影響が認められていますが、人工呼吸器を長期装着した場合に、無気肺および胸水貯留が肺にどのような影響を与えるかは十分な検証がされておらず、明らかになっていません。
3.肺炎による炎症所見
肺炎は人工呼吸器を装着する患者さんに発症しやすい疾患であり、非常に注意が必要です。肺炎は肺組織に炎症をもたらします。その炎症は持続すると肺組織を線維化(簡単に説明すると硬くなる状態)させ、それにより肺コンプライアンスが低下することが動物実験で明らかにされています。人工呼吸器を長期装着した患者さんを対象とする研究でも肺炎発症回数については検証されており、肺炎が肺コンプライアンスに影響を与えている可能性があります。しかし、症例数が少なかったり、炎症の程度が検証されていなかったりなど、まだ十分ではありません。
今回の研究ではまず、3カ月以上人工呼吸器を装着されている患者さんを対象に肺コンプライアンスを測定します。次に自発呼吸の有無、無気肺および胸水の有無、過去1年の肺炎発症回数に関する情報を画像上および診療記録上からデータとして抽出します。これらのデータを解析し、肺が何によって膨らみにくくなるのか、その原因を特定することを目指します。
今後の展望は、肺コンプライアンスを維持するための呼吸リハビリテーションの方法を確立することです。以前から行われているリハビリテーション法のひとつに、徒手的に蘇生バックを使用して肺を加圧(圧をかけて空気を送り込むこと)し、肺をしっかりと膨らませることで肺をストレッチするような方法がありますが、長期的な効果や確実な効果は報告されていません。肺コンプライアンス低下の原因を明らかにして、実際に肺が膨らみにくくなっている患者さんを対象にこの方法の効果について、検証・改善していきたいと考えています。
人工呼吸器の長期装着が肺に与える影響についてあまり研究がなされていない現状を知り、この原因を探るための研究費用を獲得したく、クラウドファンディングに挑戦しました。頂いた研究費は、主に学会発表時の渡航費、統計解析で使用するPCの購入、論文作成での英文校正の費用に使用予定です。
私は理学療法士であり、主に呼吸リハビリテーションを中心に活動しています。そのなかで肺の膨らみやすさを維持・改善する方法を確立する必要があると、臨床場面で痛感することが多々ありました。今回の研究成果を呼吸リハビリテーションの方法の改善につなげていきたいと考えています。
また昨今、人工呼吸器や透析など延命治療といわれる治療が、医療費の圧迫という側面で話をされている場面をメディアなどで見ることが多くあります。しかしそういった治療を選択することで、本人や家族が幸せになったり、選んで良かったと言われたりする方は多くいらっしゃいます。延命治療のプラスの側面について、今回の挑戦を通じて、少しでも知ってもらえる機会になれば良いなという思いもあります。ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
小ノ澤真一
時期 | 計画 |
---|---|
2019年9月 | クラウドファンディング挑戦 |
2019年12月 | 学会発表 |
2020年2月 | 論文投稿 |
2020年以降 | 治療的な介入における研究 |
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