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西田洋巳
無所属、博士(農学)
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Comment from academist staff
バクテリア細胞に簡単にDNAを導入する技術を作りたい

naomi tanaka

バクテリア細胞のDNAに刻みこまれた生物の歴史を解明するためは、簡便に細胞のゲノムDNAを入れ替える技術の開発が必要です。そこでガラス管を用いて溶液を細胞に注入するマイクロインジェクションに注目した西田さん。しかしバクテリア細胞が小さいことなどが障壁になりました。そのため生きたバクテリア細胞を巨大化させ、なおかつマイクロインジェクションに適した細胞を調整する方法を開発したそうです。この方法を興味を持つすべての研究者に利用してもらいたいという西田さんのチャレンジに、ぜひご注目ください!

生物がアイデンティティを維持しつつ多様化する仕組み

生物の歴史は、遺伝情報であるDNAの塩基配列に刻まれています。完全に一致した遺伝情報が伝承され続けた場合、生物が多様に進化することはありません。地球環境の変化に適応できずに絶滅していたと考えられます。他方で多様化だけでは、自身のアイデンティティが失われます。そのため生物は、40億年の歴史のなかでアイデンティティを維持しながら、多様化する術を得たと考えられます。すなわち、遺伝情報であるDNAには、アイデンティティを維持するための機構と多様化を導くための機構が備わり、刻み込まれているのです。

地球に最初に誕生した生物は、現在のバクテリアに似ているものであったと考えられています。したがって、バクテリアにおけるゲノムDNAの入れ替え実験ができれば、これらの機構がどのように調整され、機能しているかがわかるはずです。しかし、従来の遺伝子工学の方法では、ゲノムDNAのような大きな分子を細胞内に導入することができません。そこで、私たちはバクテリア細胞を巨大化させ、その細胞にDNAをマイクロインジェクションによって導入する方法を開発しました。

バクテリア細胞にマイクロインジェクションしたい

現在の分子生物学的方法では、ゲノムサイズのDNAのような大きな分子を細胞に導入する際、細かく断片化する必要がありますが、それには莫大な時間、労力、費用がかかります。またこの手法を適用することができるのは、特定の種のバクテリアに限られるため、壮大な生物の進化を解明することにはつながりません。

他方、微細なガラス菅を用いて溶液を細胞内に注入するマイクロインジェクションという手法をバクテリア細胞に対して用いることができれば、種を限定せずに短時間、低コストでゲノムサイズのDNAを細胞内に導入することができます。またこの手法であれば、将来、人工的にデザインしたゲノムや異種のゲノムを研究対象にすることも可能です。しかしバクテリア細胞は、通常サイズが数μmと非常に小さいため、マイクロインジェクションをすることができません。

こうしたなか、バクテリア細胞膜の研究において、細胞を巨大化させる実験が行われています。この巨大化方法は、細胞壁の合成を阻害し、適度な浸透圧条件において行われています。しかし、発表されている条件では、マイクロインジェクションに適した細胞を得ることができませんでした。そこで、私たちは巨大化のインキュベーションの条件を検討し、バクテリア細胞を巨大化させ、なおかつマイクロインジェクションに適した細胞を調整する方法の開発に取り組みました。​

バクテリア細胞を巨大化させる

細胞壁を持つバクテリアは、規則的に分裂増殖を行い、一定の大きさを保ちながら細胞形態を維持して生きています。細胞壁を失うと細胞形態を維持できず、プロトプラストやスフェロプラストとなって、分裂増殖することができません。しかし、適度な浸透圧および金属イオン組成の条件下で細胞壁合成を阻害しながら培養すると、プロトプラストやスフェロプラストが巨大化します。 私たちは、特定の金属イオンを巨大化の過程で要求することを明らかにし、そのことを浸透圧調整にも適用することによって、マイクロインジェクションが可能な膜をもつ巨大化したバクテリア細胞を作ることに成功しました。

私たちは、この方法によってさまざまな種のバクテリア細胞を巨大化してきました。興味深いことに、巨大化の様式やレベルは種によって異なり、なかには細胞直径が1mmを超えて肉眼で細胞を見ることができるバクテリアもいます。また、金属イオン組成など巨大化の条件を変えることによって、巨大化(膜合成・伸張)のオン・オフをコントロールすることも可能になりました。このことは、どの種のバクテリアに対してもマイクロインジェクションができる可能性を示しています。

さらについ最近、緑色蛍光タンパク質遺伝子を持つDNAを、巨大化したバクテリア細胞へマイクロインジェクションすることに成功し、その発現を蛍光顕微鏡で確認しました。これは、生きたバクテリア細胞へマイクロインジェクションを行った世界初の成果であり、今年の3月に開かれた日本ゲノム微生物学会および日本農芸化学会で、この成果を発表しました。現在、論文を投稿中です。

巨大化の先に

バクテリア細胞の巨大化の様式は、種によって異なることもわかってきました。たとえば、外膜を持つグラム陰性細菌と持たないグラム陽性細菌では異なります。しかし、私たちが調べた限りでは金属イオンが巨大化(細胞膜の伸張)に影響していることは共通です。さらに、浸透圧調整において塩類を用いる場合と糖類を用いる場合では巨大化の様式が違うことも明らかになりました。こうしたさまざまな種のバクテリアを用いた実験により、バクテリアの種の多様性と巨大化機構の共通性を私たちは見出しつつあります。この知見を用いることで、今後はさらに多種多様なバクテリア細胞を巨大化させることができ、マイクロインジェクションに適した細胞膜をつくることができると考えています。

また、今後はより大きな分子であるゲノムサイズのDNAの導入にも挑戦する予定です。さまざまな異種のゲノムDNAの導入を行い、その発現を網羅的に検出できるシステムを構築します。この実験によって、導入した異種のゲノムDNAのうち、宿主細胞がどの配列を発現し、どの配列を発現しないかを網羅的に明らかにすることができます。この結果に基づき、ゲノムDNAにおけるアイデンティティ維持のための機構と多様性を導く機構を明らかにしたいと考えています。本研究によって、単細胞性の微生物の進化と、それに影響を与えた遺伝情報であるDNAの水平伝播の役割がみえてくると信じています。

将来的には、巨大化したバクテリア細胞に、人工的にデザインしたゲノムDNAを導入したいと考えています。同時に、巨大化した細胞をもとのサイズの分裂可能な細胞へ戻す手法の開発も進めることによって、デザインゲノムを持つ細胞(生物)を創生することを最終目標に研究を進めています。もとの分裂細胞に戻すためには、細胞壁の再合成を誘導し、細胞膜の無秩序に見える伸張を抑制する必要があり、引き続き実験を行います。

Why we need your support

私は、研究や実験はオープンなものであり、成果は一般に公開すべきであると考えています。よって、これまでの成果はすべて論文発表し公開してきました。この方針は今後も続け、バクテリア細胞の巨大化技術およびその細胞へのマイクロインジェクションによるDNA、RNA、タンパク質の導入技術が興味を持つすべての研究者に利活用されることを期待しています。そのための第一歩として、私たちの成果を知っていただく機会を増やす努力もしており、この度クラウドファンディングに挑戦することにしました。

学会で発表する効果は、論文発表とは異なり、実際に興味を持った研究者と意見交換できることにあります。特に、私たちがやっていることはこれまでに報告のないことですので、リアルタイムに成果を見てもらい、今後の研究の展開へ活かしたいと強く思っています。そのため、サポートいただいた研究費は、この7月にイギリスで開かれる国際学会FEMS2019(2年に一度開催)において、現時点での成果を発表し、方法の公開と研究者との意見交換を行うための渡航費として活用したいと考えています。この学会に参加することは、バクテリア細胞へのマイクロインジェクション実験を促進し、デザインされたゲノムを持つ生物の創生へ近づくことにつながります。是非、ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

Profile

西田洋巳

これまでのバクテリアの巨大化への取り組みについては、研究室のHP の「研究概要」を見てください。「研究室員」のところに私の紹介もあります。遺伝情報の本体はDNAであり、現在では、かなりの長さのDNAを合成することも可能となりました。しかし、遺伝情報は細胞がないと成立せず、デザインされたゲノムを持つ生物を創生することを目標として研究することにわくわくしています。生命に神秘的なものを感じることと、細胞も機械と同じシステムで動いていることは並立することでしょうか?とても哲学的であると思っています。

Project timeline

Date Plans
2019年1月 FEMS2019参加、発表登録
2019年5月 クラウドファンディング挑戦
2019年6月 クラウドファンディング終了
2019年7月 FEMS2019発表、研究者との意見交換
2019年8月以降 バクテリア巨大化研究加速、学術論文発表

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Featured : 研究報告レポート(PDF版)

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Featured : サイエンスカフェ参加権

サイエンスカフェにご招待いたします。富山あるいは東京で実施を予定しています。日時は決まり次第、お伝えいたします。当日は巨大化細胞研究の進捗についてお話させていただきますので、ご参加をお待ちしています!
※開催地までの交通費はご負担をお願いします。また当日ご参加いただけない場合には、後日資料を共有させていただきます。

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私たちの研究室(富山)をご案内いたします。当日はマイクロマニュピレータや大量並列型DNAシーケンサーに関する説明をさせていただきます。日時は相談のうえ決定します。ご参加をお待ちしています。
※開催地までの交通費については、ご負担をお願いいたします。

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