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スポーツ指導の現場でなぜ暴力は起きるのか?

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松田太希
無所属、博士(教育学)
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フィールドワークを通して知見を積み上げ、暴力問題の有効な対策につなげる

Shun Arai

博士号を取得後、現在は大学などの研究機関に所属せずに研究を進めている松田さん。学生時代にスポーツの現場で自分自身が暴力を受けた当事者としての経験から、博士課程までは歴史研究や社会哲学のアプローチでスポーツ指導現場における暴力の発生メカニズムについて研究してきました。今回の研究では、現場の指導者が抱えている指導の悩みを聞き取り、同時に「天才的」とされる監督を調査しその卓越的な指導を言語化することで、スポーツ指導における暴力をなくすための知見を積み上げます!

暴力を受けた当事者としての経験

私は、卒業研究から博士論文まで、一貫して体育・スポーツにおける体罰・暴力について研究してきました。

中学生時代、野球を習っていました。ある日、練習がうまくいっていないことを理由に、チーム全員で整列させられ、端から順番に殴られたことがあります。驚いたことに、チームメイトやその保護者たちは「それくらい我慢しないと」という態度でした。「これはなんだ?!」という思いを今でも抱き続けています。また、バレーボール転向後は、地元のスポーツ少年団のバレーボール指導のお手伝いをしていました。しかしそこでも、練習試合がはじまると指導者たちが待ちわびていたかのように子どもたちを殴る光景を目にしました。私は助けたかったのですが、怖くて手も足も出ませんでした。そのときの後悔は今でも忘れられません。

以上のような経験によって、私の人生は、「スポーツと暴力」という問題抜きには考えられなくなりました。卒業研究と修士論文では、暴力が発生しやすい風土がどこから来ているのかを、戦前からの体育・スポーツ史を振り返ることで明らかにしようと試みました。

しかし、「ではなぜ現在も?」という疑問を払拭することはできなかったため、「そもそも暴力とは何か」を考えるようになりました。そこで、博士論文では、「スポーツ集団の暴力性に関する社会哲学的研究」とでもいえるような考察を行いました。つまり、ある特定の目的に向かって、指導者のもとで選手たちの連帯が求められるという、このスポーツ集団の構造に着目し、そこに内在する暴力の契機、すなわち「暴力性」を探りました。ここでいう「暴力性」とは、別の角度から見ればわざわざ暴力性と呼ぶ必要がないような、人間がそれなしでは生きることができない、あるいは他者と関係をむすんでいくことができないようなある種の「力」のことです。そこには、「破壊的なものを取り除こうとすると、究極の結論として、生の根源を滅ぼすことになる」というニーチェの人間観と共通する認識があります。

暴力についての社会哲学的アプローチ

博士論文のなかで、体罰・暴力をめぐって明らかになったことは、以下の2点です。

まず第一に、スポーツは根源的に人間を疎外・抑圧しうる構造を持っているということです。それは「より早く、より高く、より強く」という理念としての「規格」が、「不全態」という烙印を常に人間に押しているような規律・訓練的な文化=システムを生み出しているということです。だからといって、「スポーツが悪い」という単純な発想に至ってしまうのではなく、理念と暴力が表裏一体の関係にあることへの価値中立的な理解と自覚が必要です。

次に、指導者−選手関係が親密になればなるほど、指導者に対する選手の判断能力・批判能力が奪われていき、暴力も含め、指導者からのあらゆる働きかけを甘受してしまうような関係性が生まれます。一方、指導者は、「よい指導者」であろうとし、自分なりの指導者像を立てます。それは指導者の「自我理想」ですが、その自我理想は選手との関係を無視できません。選手に認められなければ「よい指導者」ではなくなるからです。したがって、指導者の自我理想は、選手への配慮によって膨れ上がっていきます。膨れ上がった自我理想は、それが「理想」である以上、どんな危機からも守られなければなりません。成績不振や指導の行きづまりといった事態は、自我理想の危機として指導者に経験されます。そのとき、指導者は体罰を選手にふるい、彼(女)たちの心を疚しくさせ、自分の指導者性を誇示します。体罰をふるう指導者は、選手ではなく、自分(自我理想)を愛してしまっているのです。

指導者も選手も、「よりよく」なるために努力し、それゆえの親密さが生まれますが、その関係性は「勝利の追求」、「うまくなるため」という、あまりにも自明かつ単純なスポーツ的な発想によって強化され、強固に閉鎖的な場としてスポーツ集団が形成されます。非常に明快かつ、ある意味で短絡的なスポーツの論理が、体罰・暴力を許容するテロルとなるのです。以上が博士論文で明らかになったことです。

フィールドワークでスポーツ現場の言語ゲームを読み解く

博士論文では、暴力問題を考え、分析していくための大きな枠組みのようなものしか得られていません。それは単に私の力不足でもありますが、「研究的・分析的言語の限界」でもあると感じています。暴力を論理的に否定しようとしても、肯定派の人々は関心すら示しません。だからといって、肯定派の人々の暴力肯定の理屈も論理的とはいえず、そこには指導者が依拠する価値観や考え方が反映される独特の言語ゲームの世界が広がっています。したがって、分析的言語では非常に捉えにくい現象・問題を理解・分析し、解決に向けて取り組むためには、言語ゲームの世界に飛び込むこと、つまりフィールドワークが欠かせないと考えています。ある種の文化人類学的態度です。そこで、現在、2つのフィールドワークを計画しています。

暴力へのポテンシャルが高い指導者は、よほどの病的な状態を除く限り、「どうすればうまくいくのか」と真剣に悩んでいます。そのリアルな悩みや思いは、これまで「単なる不勉強」のように理解され、ある意味では暴力的にかき消されてきました。その声をなんとか拾い上げることを第一に行いたいと思っています。いやむしろ、そこから出発しなければ、いかなる対策も無益なものになるだろうと考えています。既に関連スポーツ団体からの要請を受け、問題の解決に向けた対策の考案・実施に共同して取り組んでいます。その取り組みのなかで、現場の教師や指導者と話をする場面があります。そうした機会を利用して非構造化インタビューを行い、現場では実際に何が起きていて、何に困っているのかについて詳しく聞き取る予定です。

第二に、ではどうすればスポーツ指導の力は向上していくのか、そのための方向性について積極的に考えていかなければなりません。私は、学生時代、国内トップリーグに参加しているバレーボールチームに関わっていました。そこで目にした同チームの監督の指導は、指導言語の豊富さとセンスにおいて、奇跡的なものがありました。多くの人々はそれを「天才だから」とみなすのですが、それをできるだけ多くの指導者に共有できるかたちで言語化していくような研究を計画しています。そのために、同チームの練習を見学し、監督へのインタビュー調査を行い、臨場感のあるスポーツ指導論をたちあげたいと思っています。

Why we need your support

academistでクラウドファンディングに挑戦する理由は、現在の暴力問題についての各種の取り組みのための資金の獲得です。自己紹介欄にもあるように、私は現在、大学などの研究機関に属しておらず、アルバイトで生活しています。これだけの活動に時間を割きながらでは、満足にアルバイトで稼ぎを得ることもできず、非常に苦しい日々を送っているのが偽らざる事実です。

現在取り組んでいることは、長い年月をかけ、検証と改善を繰り返しながら継続しなければなりません。今はその黎明期かもしれません。関連団体との連携のなかで、たしかな変革の兆しを感じています。募らせていただく資金の使途を以下に簡潔に示します。

1. 出版予定著書の執筆に係る文献収集や購入。また、それに伴う交通費。
2. 関連団体との打ち合わせやフィールドワークのための移動費、宿泊費、調査協力者への謝礼。
3. 国際学会発表のための資金と、発表内容を論文化する際の英文校閲費。

以上になります。今後の目標としては、これまでの研究をさらに深化させつつも、具体的な問題として、学校の体罰や児童虐待などについても考えていきたいと思っています。そうした取り組みは、スポーツという範囲を超え、社会全体として「他者への真の寛容さとは何か」を考える壮大な射程を有していると考えています。

Profile

松田太希

松田太希(まつだたいき、博士〔教育学、広島大学〕)と申します。日本体育学会(体育哲学専門領域)、日本体育・スポーツ哲学会、日本社会学会などに所属しています。普段はアルバイトで生計を立てながら、帰宅したら研究者に変身しています。専門を聞かれたら、「暴力論」と言うようにしていますが、基礎となっているのは、哲学、教育学、社会学、精神分析学です。目指しているのは、研究と実践をつないでいくことができるような学際的・領域横断的な知の創造です。大学に所属していない身としては、研究費の獲得が非常に困難な環境です。そんななか、アカデミストさんに相談し、「所属がなくてもぜひやってください」と励ましをいただきました。皆様からのご支援をいただき、暴力問題の解決に向けてさらに奮闘したいと思っています。よろしくお願いいたします。個人HP(https://sites.google.com/view/philosophyofeducationandsport/)

Project timeline

Date Plans
2019月4月 クラウドファンディング挑戦、執筆活動
2019年5〜7月 執筆活動、フィールドワーク、スポーツ関連団体との会議
2019年8月 著書出版予定、国内学会講演、スポーツ関連団体との会議
2019年9月 国際学会発表

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今年8月の体育学会で、2017年に賞を受けた論文の記念講演が予定されています。そこで、現在の取り組みについても言及します。その際の資料にお名前を記入します。

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Featured : サイエンスカフェ参加権

"Meeting of Philosophy on Violnece, Sport and Human"を開催いたします。スポーツや暴力といったトピックに沿いながら、人間とは何かについて、語り合ってみたいと思います。場所は東京都内、日時は2019年11月16日(土)を予定しています。

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今年8月に出版予定の著書にサインを入れて郵送いたします。

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本研究成果を発表する際の謝辞にお名前を掲載させていただきます。※研究成果をまとめられるよう努力いたしますが、論文の掲載に至らない可能性もございますこと、ご承知おきいただけますと幸いです。

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出張し、講演や会議をします。これまでの研究成果や現在の取り国について、ご希望の場所でお話いたします。「暴力を学問的に考えるとはどういうことなのか」「今、困った問題を抱えているから一緒に考えたい」など、どんなニーズでもかまいません。柔軟に対応させていだきます。

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