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Closed 陸・海・空、時をもかける土の龍 - ミミズが導く豊かな社会の実現 -

Monthly academist Prize 2nd adopted

Naotaka HARA

Kyoto University、Research Student

Challenge period

2022-11-01 - 2023-08-31

Final progress report

Sun, 20 Aug 2023 23:01:30 +0900

Progresses

17 times

Supporters

24 people

Elapsed time

Tue, 01 Nov 2022 10:00:00 +0900

活動報告

今月で8ヶ月目、長らくの間ご支援いただいた皆さまありがとうございます。本日は、支援いただいてから今までの研究活動の成果報告をさせていただきます。なお、ほか2期生とは異なるスタンス、一般的な研究者とは違う要素が含まれるため最初に明記します。

私は特定の学問をベースとした研究を行っておりません。自身の興味のある現象や生きものの生態を実験・シミュレーションすることにより学術分野全体あるいは社会に貢献することを第一目標とはしていません。興味深いと感じている生きもの(みみず)について、各学術分野が培ってきた考え方や手法を用いて「みみずを調査・記述・考察すること」が第一目標であり、学問や社会への還元はあくまで副次的なものと捉えています。よって、学問分野を横断しながら日々を過ごしており、進捗報告を研究というカテゴリーにまとめると大変煩雑になるため、大きく自然科学,人文科学,社会科学に大別しました。以下、研究部分の進捗報告です(展望も一部含みます)。

①自然科学
ミミズと私たちが呼んだとき、慣習的には目視が十分可能なくらい大きな陸棲のミミズを指します(以降何の注釈もないカタカナ表記のミミズはこの定義に従います)。この大きなミミズたちは、長らく生態系改変者と呼ばれてきました。その理由は、土壌中に通り道をつくる(→根が張りやすく水が浸透しやすい)、土壌をかき混ぜる(→栄養が均一になる,土壌のガス交換になる)、落葉を粉々にする(→微生物や小型の土壌動物が利用しやすくなる)等、様々な理由によって土壌環境に大きな影響を与えるからです。では、大きなミミズたちは既に研究され尽くされており、何から何まで理解されているのでしょうか。…そんなことはありません、皆さんがほぼ毎回尋ねるような道路にミミズが這い出てくる理由も、そもそもミミズが何種いるのかも、それらミミズの種のグループ分けも、個々のミミズ種たちの普段の暮らしぶりも、あまり明確には答えられないものが多いのです。ミミズは、あまり空気中に姿を現してくれませんし、体表面の器官の形態は個性豊かで中々同じ種とされているミミズたちの間でも安定しない場合もあります。最新技術である遺伝子で見ようとしても中々結果の解釈が難しい場合も多く、世界各地でミミズの研究、特に基礎研究は難航しているのが現状です。大事な生きものだけど研究するのも難しい生きもの、そんなミミズたちを前に私が行ったのは、既に知られているミミズの暮らしを明らかにすること、これに尽きました。ここでは高校・大学生から着手してきた3つのプロジェクトを紹介します。

(1)イソミミズ Pontodrilus litoralis の広域分布
高校生のときにイソミミズと出会ったことで、私はいま社会的に活動しているといっても全く差し支えない、それくらい推しの生きもので、永遠の相棒的な生物種です。このミミズは一般的なミミズと非常に異なる点をいくつも持っています。まず、このミミズは砂浜や干潟など海辺にいます。つまり、塩に強い、おまけに日差しにも強いんです。砂浜は、波が来ては引いていく、すなわち、干上がることと水に浸かることを繰り返すので、それらどちらにも強い環境耐性がとんでもないミミズです。おまけに光る体液持ちで、普段土のなかにばかりいる捕食者に対抗する手段を持つというミミズ界の強キャラです。…さて、そんな推しミミズについてまず調査したのが、日本のどこに生息しているのかということです(身近で採れたほうが研究するにも創作するにも布教するにも便利ですから)。文献調査の結果、イソミミズの発見報告は本州以南の太平洋側に集中していることを知った私は、日本全国でイソミミズの採集を行いつつも、特に北海道、本州の日本海側、九州地方の採集を重点的に行いました。そして、計6つの都道府県でイソミミズを初めて発見し、調査結果を短報というかたちで大学が発行している学術雑誌(疏水)に掲載しました。この出版時期が、皆さんにご支援いただきはじめた11月になります。そこから現在、新たに日本海側の調査を強化し、1府で新たに発見したことから、これまでの文献調査の詳細も加えて、Journal of Japan D誌(秘匿)に6月末を目処に投稿を予定しております。

(2)イソミミズ Pontodrilus litoralis の局域分布
(1)では、日本の何という都道府県で採集したかが焦点になっていましたが、こちらでは、イソミミズが砂浜のどういった環境を好んで生息しているのかに着目しておこなっています。前述のとおり、砂浜海岸は、干出と浸水を繰り返し、どちらの割合が高いかはどれだけ干潮時の波打ち際から離れているかによって異なっています。また、砂浜海岸には、漂着物以外に直射日光から身を守る術がなく、餌となるような代物も漂着した天然物くらいです。そこで、砂浜海岸をいつも干上がっている場所、潮の満ち引きによって干上がったり海水に浸かったりする場所、いつも海水に浸かっている場所の3タイプに分類し、さらに、それぞれについて、漂着物に覆われている場所、漂着物に隣接している場所、漂着物が周囲にない場所の3タイプに分類し、合計9つの環境パターンでイソミミズの採集を行いました。さらに、5月から11月にかけて継続的に調査を実施したため、それぞれの季節変動も明らかにしたものを、既に日本土壌動物学会大会で発表済みです。今後は、国内の学会誌に英語論文として投稿予定です。

(3)生活様式が異なるミミズの排糞生態の違い
これまではイソミミズという特定のミミズ種についての研究でしたが、この研究では、一般的な森林に生息するミミズについて研究に取り組みました。ミミズには大きく3つの生活様式があり、落ち葉の中に生息し落ち葉を主に食べる表層種、土壌の浅い場所に住んで土を食べている浅層種、土壌の深いところまで道をつくって住み着き、土や開口部に溜めてある落ち葉を食べる深層種に分けられますが、これらのうち、表層種と深層種の糞に関する生態に着目しました。人間でも食べ物や生活リズムが違うと、排便にその影響が出るように、ミミズでも表層種と深層種では異なる糞の出し方をしており、この結果は既に日本土壌動物学会大会で発表済みです。今後は、国内の学会誌に英語論文として投稿予定です。

さらに4月からは、目にほぼ見えない小型のミミズたちの仲間であるヒメミミズ科 Enchytraeidae の分類にも着手しました。目視が難しいようなヒメミミズたちが生態系に果たす役割については未解明な部分が多いのですが、様々な土壌中に生息しているためにどのような種がいるかが環境のパラメータになっています。しかし、ただでさえ、大きなミミズの種分類も遅れている日本では、これら小さなミミズたちの種分類や生態の理解は、更に大きく遅れています。よって、文献調査で既に知られているミミズたちに関する知見をまとめるのはもちろん、小さなミミズたちを採集する、観察するといったとても基本的なところからも、ひとつひとつ地道に模索しています。例えば、公園、側溝、車道の分離帯など、大学と自宅を行き来する際にもヒメミミズたちが生息するフィールドを通ります。もちろん、田畑にも森林にも海浜にも、富士山の頂上から深海まで、どのようなフィールドでどのように(網?スコップ?素手?)採集するのか、そんなところから…と思われるかもしれませんが、このパイオニア感も生きもの研究の醍醐味だと私は思いますね。

②人文科学
最近生きものを見なくなった…という声をそこら中で耳にします。では、本当に私たちと生きものたちの関係というのは無くなってしまったのでしょうか…そんなことはありません。食卓に並んでいるのは生き物ばかりですし、漢方のみならず薬品も生きもの由来が多いですよね。生きものの特徴的な生態や形態は、日常のあらゆる所に潜んでいますし(例として、新幹線の先頭はカワセミの頭部を、ヨーグルトの蓋はハスの葉を参考に作られてます。)、生きものをモチーフにした祭りものは神社・寺院に行けばすぐ見つかりますよね。生きものは季語にも表れますし絵画にも登場しますので、文化の世界にも目を向けてみると生きものたちと私たちの関わりって相当あるんですよね。そこで、みみずと私たちの関わりを以下5つの視点から記述しようとしています。

(1)みみずと薬
ミミズは昔から薬として利用されてきています。地龍は指定された4種のフトミミズから作られる漢方薬(とされていますが、実際はいろんな種が混在しているみたい)です。日本ではフトミミズが地龍の原材料として原則指定とされていますが、実際には周辺動物も利用していることが明記されており、この周辺動物が、薬効的な話なのか動物分類学的な話なのかは大変興味深そうです。ただ、地龍に使われるミミズの種類によっては、その薬用目的が異なる可能性があり、実際に例えばEisenia fetidaは抗腫瘍、Pheretima aspergillumは喘息や血圧を下げる治療に使用されています。いずれにせよ、ミミズを今後も薬用利用するためにはミミズの保全にもさらに関心が向けられる必要がありますね。

(2)みみずと食
これまで独自に行なってきたヒアリング調査で、日本,中国,タイ,アメリカ,ベネズエラでミミズを食べる文化があった国として挙げられました。どのような調理法だったのか、どういった場面で食べられてきたのか(庶民料理?高級料理?)等、ただ単にミミズを食べる国というだけでなく、さらに踏み込んだ記述を今後していきたいと思っています。あまり進捗が良くない本視点ですが大事にしたいと思う理由は、ずばり皆さんの関心の高さにあります。生きものをすごく毛嫌いされている方々も恐る恐る聞いていただける質問が、食べられるか否か、です。それだけ関心のある事柄なので、ライフワークにしていきたいなと思った次第です。

(3)みみずと教
教という一文字には宗教と教育の2つの意味を込めました。私たち日本人は宗教というとどこか胡散臭いイメージを抱いてしまいがちですが、宗教法人法をご覧いただけると気づくように、宗教とは信者に教義を広めて幸福へと導くものです。以前私もみみず教を立ち上げようとしたのはさておき…、宗教に必要な教義や崇拝物というのは意外と動植物がモチーフになっているのです(仏教だと、仏像は大体ハスの花の上に乗ってますよね。あと、一部の寺院や宗派では牛が神使とも考えられています)。みみずも含めた土壌動物も、数は少ないとはいえその例外ではなく、宗教画や経典の調査により、みみず(土壌動物)の宗教史としてまとめたいと考えています。(教育利用の話は社会科学項で言及します)

(4)みみずと歌
ミミズに発声器官はありません。しかし、文化の世界でみみずは音を発する描写が古今東西に見られるという非常に興味深いテーマです(恐らく5つの視点のなかでは、1番長く関わっているテーマになりますね)。俳句には蚯蚓(みみず)だけでなく蚯蚓鳴くという季語も存在し、さらにそれぞれの季節も異なります。季語のズレというヒントから生態学者は蚯蚓鳴くという季語は、ミミズと同じ環境に生息するオケラの鳴き声をミミズの鳴き声と勘違いしたのではないかと推測しました。…これが俳句だけの話じゃないところが面白いんですね。中国でのみみずの表記のひとつである歌女、ヨーロッパで歌われている歌のひとつであるThe earthworm song…年代も地域もバラバラに見られるこの現象をまとめて、ミミズに歌わせる人間の業を解明したいなと思い、小説・童話・アニメ・映画、ジャンル問わず、創作物の収集に努めています。

(5)みみずと絵
宗教画やアニメの話にもなるので、題材収集の話は先述のもので良いのかなと思いますが、それで何をしたいのか、という話を本項ではしたいと思います。まず、純粋にみみずの標本(のようなもの)を残していきたい、平たく言うと記録をしたいというものです。標本という表現をしたように、自然科学でも基礎生物学では大変意義のある行為のひとつですね。そして、民俗文化でも、記録の保全には少ないながらもスポットが当たっているように思いますが、生きものの文化の保全という話になった途端、その試みはさらに希少なものとなります。しかし、生きものの文化というのは、文化そのものだけでなく生きものそれ自体も滅びゆくもので、儚いながらも大変脆いものとなっています。どちらも失われつつあるいま、生きものの文化を守ることは急務だと考えています。そして、それら収集の過程で、人々がみみず(生きもの)に抱く思いを抽出して明文化し、再び人類が生きもの、引いては自然との向き合い方を再構築していくきっかけになればと考えています。

③社会科学
前項で先送りにしました、みみずの教育材料としての可能性について、まずは触れたいと思います。ミミズは、これまでにも生理学的な実験材料(解剖が比較的容易で軸索が大きいため)やコンポスト飼育材料(廃棄物を餌とするため環境問題に話を繋げやすい)として利用されてきました。しかし、その見た目から忌避されることも多かったため、先行研究者らのミミズぬいぐるみを参照し、その改良を重ねてきました。解剖用として、環帯部分などを付け替えることで扱うミミズ種広くに対応し、しかも手触りも良い素材にアップデートした、臓器の配置などを忠実に再現したぬいぐるみも作成してきましたし、逆に小型化させることで、生態学的な説明(ミミズによって生息している土壌の深さや食べ物が違う)を容易にする工夫もしました(これらの改良は皆さんの支援無しには成り立っていないものも多く本当に頭が上がりません)。さらに、ここ数ヶ月は、アナログゲームチックな科学教育アクティビティの設計や教育目的のデジタルゲームとして生態系保全を主題としたRPGの制作にも取り組んでおり、プログラミングコンテストなどでも大変好評です。
この4月からは防災に取り組むとある一般社団法人さんのもとでフェローとして働きつつ、日本社会関係学会のジュニアコンサルタントもさせていただいておりますが、これらではEco-DRR(生態系サービスを活用した防災)を主題に活動を開始させていただいております。ぱっとEco-DRRをイメーシするなら、例えば草木生い茂る山と、ほとんど木が生えていない山だと、どっちが土砂崩れを起こしにくいのか、答えは簡単、前者でしょ、みたいなお話です。この例えで言うところの、山に木々を植えていく活動の有効性を説いたり、実際に人を集めたり監督したりするのがひとまずの業務になるわけですね。具体的な業務として、防災教育実習における講演講義、社会事典など社会学関連出版物における自然科学分野(環境・動物学など)での執筆と編集が大まかな業務となります。
アウトリーチをひとつサイエンスコミュニケーションの実践と解釈するなら、かなり多くのご講演も皆さんにご支援していただいてから取り組んでまいりました。Mitsubachi, GENSEKI (BEAST), SHITEN (BEAST), CEED, 月夜サイエンス (KagaQ), 学問バー, 理系とーくバー, サイエンマニア, サイエンスラバー (LeaL), 生きものラジオ(JWCS), 生き物雑談(スペース)など、ぱっと思いだせるだけでもこれだけあります(漏れてる方いたらすみません)。まだまだ課題点が多いアウトリーチ方面ですが、これだけ呼んでいただいているのもみみずの魅力さまさまであり、そのミミズに限ってこなかった(自然科学的なミミズだけではなく、人文社会学的なみみずの話もきちんとする)スタイルを順当に実践・評価してもらえた証なのかなと思っています。今後はこれら教育・防災・アウトリーチを実践研究の一例とし、分野全体に一石を投じるムーブメントにしていけたらと考えています。

まとめると…
・クラウドファンディング開始時に掲げていたように、みみずという生きものに対して自然・人文・社会科学で広くアプローチできた。
・自然科学ではフィールドワーク、人文科学では資料収集と文献調査およびヒアリング、社会科学では実際の現場で働きながら、実践および質的研究に取り組むなど、それぞれの領域で自分なりの方法を開拓していくことができた。
・自然科学では論文、人文科学では出版、社会科学では発表およびサービスの向上に取り組むなど、それぞれの領域で自分なりのアウトプットを実践している、もしくは実践できた。
ということになると思います。
改めてご支援いただいた皆さま、広報していただいた皆さま、および各箇所で関わっていただいている皆さまに感謝申し上げます。

最後に、掲載画像になりますが、これは2022 GENSEKI FINAL での一幕です。思いの丈が爆発してさまざまな方にご迷惑をおかけしましたが、伝えたい人にはきちんと思いが伝わったイベントだと確信しています。ここの発表では、自然・人文科学に関わる発表をしたのはもちろん、当時薄かった社会科学的要素がすでに白衣に現れている、まさに、この1年間くらいを象徴したいい1枚だと思っています。撮影者のKさんには、この場を借りて改めて感謝申し上げたいと思います。

原 直誉 Tue, 16 May 2023 23:51:59 +0900
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