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Fumitaka WATANABE

Kyoto University、研究員

Challenge period

2022-11-01 - 2025-03-31

Final progress report

Fri, 28 Feb 2025 22:25:56 +0900

Progresses

55 times

Supporters

39 people

Elapsed time

Tue, 01 Nov 2022 10:00:00 +0900

【訂正あり】#44 Donor-Advised Fundsと経済格差

前回の活動報告について、最終的な修正前のバージョンの原稿をアップしてしまっていたことが分かりましたので再投稿します。申し訳ありません。何度も確認したものの、まだ誤字が残っていないか心配ですが…。
前回のものは、削除をacademistさんにご依頼しておきます。

**********
日本の大学の10年後をファンドレイジングの視点から考えるにあたり、非常に重要なテーマがDonor-Advised Funds(DAF)です。
本プロジェクトでも重要なテーマなので調べているのですが、その中で思うところがあったので共有したいと思います。

DAFは、コミュニティ財団や金融機関などに設けられる慈善目的の口座で、個人や家族が資金・資産を寄付し、それらの財産を管理・運用して非営利組織へと支援を行うために使われています。

この口座に寄付された資金・資産は、運用によって増えていくわけですが、DAFを運営する機関がその口座からどこの団体に支援を行うか、寄付者が「推薦(advise)」することができます。
(最終的な支援の承認は、DAFを管理する機関によって行われます)

寄付者は、DAFに寄付を行うたびに税制優遇の恩恵を受けることができる仕組みになっています。金融機関やコミュニティ財団以外にも、本プロジェクトのフォーカスである大学(および大学病院)などがDAFを運営しています。

たとえば世界的に有名な大学病院グループを擁する米国のJohns Hopkins Universityでは、下記のようにDAFのポリシー・ガイドラインを公開しています。
https://giving.jhu.edu/giftplanning/donor-advised-fund

DAFは米国の寄付市場に大きな影響を与えている、近年ますます成長している寄付の経路です。
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/08997640211011248

さて、日本の個人金融資産は下記のように2200兆円を超えて過去最大を更新しています。
これらの金融資産は、高齢層に偏って分布しています。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=79699?site=nli

長年にわたって財産を蓄積した資産家にとって、財団設置などよりも簡単な手続きで非営利組織に対して長期的・計画的な支援ができるDAFには、日本においても大きな可能性があるように思われます。

しかし、この2200兆円を超える金融資産は、高齢層の中でも一部のセグメントに偏って分布しており、単身世帯の70歳代は、4世帯に1世帯が貯蓄のない世帯です。
2人以上世帯に住む70歳代でも、5世帯に1世帯は貯蓄がありません。
https://news.yahoo.co.jp/articles/f0aaf308e86f38630f364b3705fbb61928a1a0e8?page=2

日本でも近年、DAFやそれに近しい仕組みが出てきており、それは大学ファンドレイジングにとって重要なチャネルになることは間違いないと思います。

そして、大学へ流れるお金は、基本的には教育や研究に活用され、次世代により良い社会を残していくことにつながります。

本プロジェクトに関連してDAFについての調査もスタートしているのですが、その一方で、貯蓄のない高齢層の方々のことも非常に気になります。

この方々に対する社会としてのケアを充実させることなく、資産家がグローバルに著名な大学に対して次世代のために多額の寄付をして栄誉を得る、という社会は成り立つのでしょうか。

おそらく、そんな社会は成り立たないか、成り立ったとしてもある面でグロテスクなものになると思います。

ある国の個人寄付の分布は、
・富の分布の不平等の度合い
・その社会における寄付への情熱
 (その指標としての、the kindest poorest: 最も親切で最も貧しい人の寄付額)
が分かれば予測できるとしている論文があります。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S037843711100505X

この論文の意味するところは、最も親切な、しかし最も富に恵まれていない人が、それでも心ばかりの寄付をしたいと思える社会をつくることが、個人寄付市場全体の構造と関連しているということです。

(※因果関係に関する主張をしている論文ではありませんので、「富に恵まれていない人々に対して寄付の習慣を定着させれば、その結果として寄付市場全体が拡大する」という誤解をされないようにお願いします)

「資産がない高齢層の方が、人の役に立ちたいと思って寄付を考えるような社会」とはどのような社会なのか?

これについて考えることが重要であると、上記の先行研究は示しているように思われます。

寄付文化をつくっていくというのはどちらかというとマクロマーケティングの分野になるため、基本的に個々の団体の寄付募集を対象にする本プロジェクトで扱うテーマではありません。

が、寄付を募る研究機関が(自分たちの研究だけでなく)社会におけるもっとも脆弱な層に対してどういうスタンスや考え方を持っているのか、は実は重要な要因なのではないか、と思うところです。

本プロジェクトでは、様々な研究機関のファンドレイザーや幹部の方と対話する機会がありますので、その機会の中から上記についても考えていきたいと思います。

(写真:UnsplashのMorgan Housel氏によるもの)

Fumitaka Watanabe Sat, 14 Dec 2024 11:26:43 +0900
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