はじめまして!京都大学大学院教育学研究科博士課程2年の櫃割仁平(ひつわりじんぺい)と申します。小さい頃から色々な物事に感動してきて、その感動体験が自分の人生観を形成してきました。それが多くの人にも当てはまることであったら、感動体験や美を感じる体験に大きな力が秘められているのではないかと考え、研究の世界に足を踏み入れました。研究の時間も好きですが、芸術を堪能する時間も大切にしていて、絶景を見に行ったり、週末は美術館に行ったり、コンサートに行ったりしています。好きな画家はウィリアム・ターナー、好きなバンドはBUMP OF CHICKEN、好きな映画はニューシネマパラダイスです。最高に美しいです。
美術館に行った時、大好きなバンドの新曲を聴いた時、人助けの行動を見た時など、私たちは「美しい」という感情を抱きます。私自身も感動しやすい性格で、日々出会う様々な事象に美を感じ、その度に、目の前の景色が変わるような体験をしてきました。このように美には人の心を動かし、価値観を変容させる力があります。私は、自分自身が抱く感情について、そして、美という感情に強く興味を持っています。
しかしながら、美しさを感じるポイントは人それぞれで、この個人差ゆえに近年まで、美の研究は発展してきませんでした。それが、ダンスや詩など、研究題材が多様化してきたり、脳科学と統合した神経美学という学問が生まれたり、研究の土台が出来上がりつつあります。美には個人差があり、多様であるという部分と、通常、脳の眼窩前頭皮質が活性化するといった共通する部分とが研究されてきました。
私は、世界最短の詩、俳句を題材にして、美に関する多様性や共通性(核)を解明したいと考えています!俳句は日本発祥であり、美の文化差を反映しうるという点で多様性を含んでいると同時に、その究極の短さから、美の核心に触れられるポテンシャルを持っています。
美の感じ方は、人それぞれであるというだけでなく、育ってきた環境や接してきた人に大きく影響されます。その最たる例が文化だと考えています。日本では、わびさびや粋、幽玄といった独特な美意識が存在しています。例えば、わびさびは未完成なもの、欠けたものに感じる美しさです。俳句はその短さから、全てを言い切らない「不言の芸術」であるとも称され、時に曖昧さを伴って、鑑賞されます。この美意識は他の文化ではあまり見られません。俳句はHaikuとして、様々な言語に翻訳されており、これらの題材を用いて、文化比較研究を行うことで、「多様性」を示します。
また、俳句は圧縮された最小限の表現を用いていて、美の核心にも近いと考えています。物理の世界では、原子、原子核、核子、そしてクォークと、小さい世界を探索することによって、様々な物質や現象を知ろうとしてきました。同様に、美や芸術の領域でもその小さい世界に迫っていくと俳句にたどり着き、ここから美の核心を明らかにできるかもしれません。具体的には、俳句の美の評価を高める要因を1つずつ解きほぐし、脳科学の知見も用いながら、共通で活性化する脳部位を示していきます。
(2023年8月 追記)
これからのプロジェクトでは,2つの方向でAIを活用していきます。1つ目に,AI生成俳句を実験題材とします。季語や字余りなど細かい統制がなされた俳句を大量に利用でき,それらと人間作俳句を比較することで,人の芸術鑑賞スタイルや美意識に新しい示唆を与えることができます。2つ目に,分析にAI,特に自然言語処理の技術を利用していきます。例えば,俳句を鑑賞している際の発話をテキストデータとして収集し,そこで登場する言葉の特徴や単語間の関係性に注目します。それによって,これまでの心理学実験の基本であった単純な点数データでは明らかにできなかった複雑な心理状態を明らかにすることができるかもしれません。
現在、俳句の「曖昧さ」に注目して研究しています。俳句は文字数、つまり情報量が少ないがゆえに、多くの曖昧性を生み出します。目の前の事象をすべてを言い切らない(言い切れない)ことによる芸術のおもしろさがあると考えています。
昨年度、私たちは、参加者の方に俳句を段階的に評価してもらう実験室実験を行いました。具体的には、俳句を上五・中七・下五と段階的に提示して、曖昧さを感じた度合いと美を感じた度合いを評価してもらいました。その結果、「曖昧さの解消(最初に抱いていた曖昧さが鑑賞の過程で減少すること)」が俳句の美しさを上げるということが明らかになりました。つまり、曖昧性は最初はあった方がいいが、ずっと曖昧なままがいいわけではなくて、それがどこかで解消することで美しいと感じられる、ということが分かりました。
これから、この結果を脳機能の観点から検証しようと考えていて、MRIという脳画像を記録できる機器の中で、俳句の鑑賞と評価を行ってもらう予定です。曖昧さを感じた時に活性化する脳部位の活動の減少と美を感じた時に活性化する脳部位が関連していれば、曖昧さの解消が美に繋がるということの根拠になります。
(2023年8月 追記)
昨年度,人間俳句,AI俳句,そして人間とAIの共創俳句を比較する研究の論文出版を行いました。そこでは,人間とAIの共創俳句が最も高い美しさの評価を得たという興味深い結果を示したのですが,実験に参加したのは俳句の非熟達者でした。これからは,俳句熟達者 (例えば,句会の主宰者) にAI俳句を鑑賞,評価してもらうことで,AI俳句の発達についてさらに深い理解が得られるとともに,熟達者と非熟達者の鑑賞スタイルの相違などを明らかにできると考えています。
挑戦した理由には、経済的な側面と社会的な側面があります。
まず、今年ライフステージの変化によって、これまで免除頂いていた授業料を払うことになりました。新たに授業料分の資金を作りながら、これまでと同水準の研究をしていくことに難しさを感じ、クラウドファンディングの挑戦を決意しました。
また、私は研究が大好きで、生涯をかけてやっていきたいと思っています。同時に、社会と繋がり、研究者に関わらず多様な面白い方々と会ったり、お話したりすることがとても好きです。そのような繋がりから、研究のことを高校生や学校の先生向けに話す機会を頂いたこともありました。その中で、博士課程生や研究者と話す機会がこれまでありませんでした、といった声をよく聞きました。つまり、研究者が、社会と繋がる機会が少ないのではないか、という問題意識を持っています。このクラウドファンディングは、そんな社会に広く「美しさ」の研究を知ってもらえる機会であり、かつ、自分自身も、自分の研究を分かりやすく伝えるためのいいチャレンジになっています。
哲学、美学、修辞学て語られてきた美しさについて、挑戦者は俳句に着眼し、その曖昧な表現にひそむ美しさを、心理学と神経科学の手法から解明します。それは昨今の俳句をブームに終わらせることなく、むしろ科学的なエビデンスをもって、俳句の魅力、豊かさを一層に力強く指し示し、社会へと還元する端緒を拓くものと確信します。皆さまどうぞご期待を、また応援のほどよろしくお願いします。
美の体験は、時代、文化や個人の考え方によって変わるため、実証研究の対象にすることが難しいとされていました。そのような難しい研究テーマにチャレンジする挑戦者を、私は推薦します。人間はいつ、そしてなぜ美しいと感じるのか、その神経基盤は何なのか、美の感情体験には未だに無知な部分が多くあります。この研究プロジェクトを通して、日本独特の美と、文化普遍的な美に関する我々の理解が深まることを期待しています。
櫃割さんは日本独自の詩歌である俳句に対する審美感情を扱い、俳句やその背景にある日本人・日本文化における美徳のあり様に迫る挑戦的な研究を行っています。櫃割さんは俳句という曖昧さの高い題材を心理学・認知科学という実証的研究の俎上に載せることに成功した世界的にも稀有な研究者です。また、自身の研究遂行能力に加え、教育現場や企業との恒常的な交流を図っており、研究成果にかかわる効果的なアウトリーチも期待できます。以上より、櫃割さんを推薦いたします。
芸術作品に触れたとき等に生じる「美」の感覚は、ヒトに共通して備わるこころの働きであり、近年、心理学を中心として注目が集まっている重要な研究テーマです。神経科学・感性工学のアプローチを組み合わせ、「俳句」に着眼することで美の本質・多様性を解明するという本プロジェクトは、新しい人間観の創造を通じた社会への貢献が期待されます。何事にも積極的に取り組む櫃割さんの挑戦を、心から応援しております。
「感動した!」私たちは多くの場面でこう言いますが,感動とは一体なにか,明らかになっていないことが多くあります。私自身,感動がどのように強まるのか研究をしており,日々その難しさを痛感しています。櫃割さんの研究は,俳句への審美的感情という観点からこの難しいテーマに果敢に取り組んでいます。挑戦心と,着実に研究成果をアウトプットしていく堅実さを持ち合わせている櫃割さんのパワーで,私たちの感動体験の核心が明らかになっていくと確信しています。
時期 | 計画 |
---|---|
22年9月 | MRI実験開始 |
22年9月 | 昨年度の実験の論文執筆 |
22年9月 | 日本認知科学会第39回大会にて研究発表 |
22年10月 | 昨年度の実験の論文投稿(投稿先:「Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts」) |
22年10月 | 日本認知心理学会第20回大会にて研究発表 |
22年10月 | 自主ゼミによるサブ研究スタート(他感覚イメージと俳句の美の関係) |
22年11月 | MRI実験終了 |
22年11月 | MRI実験の分析 |
22年12月 | MRI実験の論文執筆開始 |
23年1月 | MRI実験の論文投稿(投稿先:「Neuroimage」等の神経科学系雑誌を検討) |
23年2月 | 自主ゼミ研究の分析・論文執筆開始 |
23年3月 | 学振PDの研究計画構想・申請書作成開始 |
23年3月 | ICPS2023@Brussels でMRI実験の研究発表 |
23年4月 | 自主ゼミ研究の論文投稿(投稿先:「Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts」) |
23年5月 | 学振PDの申請書完成 |
23年6月 | 博論構想仕上げ |
23年7月~ | 博論執筆 |
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