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宮崎 慈生

僧侶、独立研究者

挑戦期間

2021/10/05 - 2022/12/15

最終活動報告

2022/12/13 22:39:01

活動報告

16回

サポーター

19人

経過時間

2021/10/05 10:00:00

挑戦者の自己紹介

宮崎 慈生

宮崎慈生(じしょう)と申します。専門は量子情報理論です。東京大学大学院理学系研究科の博士課程を半年オーバーでなんとか修了後、禅宗の僧侶になりました。1年前に道場での修行を終え、福井県西方寺の手伝いをしながら、空いた時間に研究しています。限界まで剪定した庭木が数ヶ月かけて復活してくる様子を見守るのが好きです。
「門前の小僧習わぬ経を読む」という諺がありますが、私は寺で育ったにも関わらず、師匠の説法が分かりませんでした。しかし物理学を学んでいくうちに、逆に師匠の話が腑に落ちるようになりました。そういうわけで、仏道と科学を志す気持ちは、複素数の実部と虚部のように一体です。どうぞ宜しゅう。

あなたが研究を通して成し遂げたいことはなんですか?

デカルトが「想像上の数」と名付けてしまったせいでもありますが、虚数が実際にあると思っている人は少ないでしょう。しかし今や虚数は、数物系科学に必要不可欠な存在に昇格しています。では虚数は単に便利だから使われているのでしょうか?他に意味があるのでしょうか?

量子物理学にとって、虚数は無くてはならないものです。例えば有名なシュレーディンガー方程式 \[ i\hbar \frac{d}{dt}\psi=\hat{H}\psi \]の一番左にも虚数単位iがあります。この虚数は単に記述上便利であるだけでなく、実際に必要です。2021年3月の論文で、ポーランド・中国・カナダの共同グループが、虚数部分の違いしかない量子系を区別できることを実験で示しました。実数的な「長さ」で区別される二つのロープがあるのと同じように、虚数によって区別されるものがあるということです。

彼らは物理系が「どれだけ虚か」といったことを表すイマジナリティという概念を導入しました。私はこのイマジナリティや虚数にどういう意味があるのか、情報論的な観点から迫りたいと考えています。

どのようなプロセスで実現しようとしていますか?

量子情報処理と呼ばれる分野では、自然に現れる量子現象を解明するだけでなく、量子系を人の手でデザインすることにより、今までに無い情報処理を目指しています。量子コンピュータや量子暗号という言葉は最近よく耳にするようになりましたね。

この分野では、イマジナリティも含め日々新しい量子的概念が生まれ、その性質が調べられています。例えばエンタングルメントという概念は、量子情報処理の黎明期から知られています。エンタングルメントの物理的な意味は、それを使うと何ができるのか、量子コンピュータに突っ込むと性能が上がるのか、などを調べることで段々と明らかになってきました。

私はイマジナリティを使うとどのような情報処理ができるのか調べることで、その物理的意味を明らかにしていこうと考えています。既にイマジナリティが量子系の推定プロセスにどのような影響を及ぼすかわかって来ているので、その洞察を深めることから始めます。関連が深そうな量子度量衡学やアナログ量子計算、量子相転移などへの応用も試みるつもりです。

現在取り組んでいる研究課題はなんですか?

今取り組んでいる量子パラメタ推定と呼ばれる分野は、位置・角度・温度など、量子系のパラメタを推定する方法を深堀りします。これまでの研究によって、イマジナリティがあると、パラメタの推定をしづらくなることがわかりました。イマジナリティは量子力学にしか無い概念ですが、逆に量子的なパフォーマンスを下げてしまうことがあるのです。

この現象は、二つ以上の物理量を同時に測定しようとする際に起こります。ハイゼンベルグの不確定性原理のように、複数の物理量を正確に同時測定できないという性質は、一般に両立不能性などと呼ばれます。

両立不能性を回避する手段として、イマジナリティを消す方法を提案しました(論文投稿中。プレプリントはこちら)。量子系のイマジナリティが0であるならば、複数パラメタの同時測定を行うことができ、他にもパラメタ推定に有利な条件が整います。現在は、幾何学的な観点からこの結果を再考察し、次の研究につなげようとしています。

なぜacademistに挑戦していますか?

このクラウドファンディングに挑戦する理由には、まず経済的な事情があります。研究機関に所属していないため、アクセスできない論文、図書館に取り寄せできない洋書があり、諦めていました。今の私は研究に充てられるほど貯められませんし、立場上副業しづらい状況にあります。経済的余裕があれば、資料にアクセスする手数が増えます。応援してくださる方には、ご支援いただけると大変有難いです。

またこの場を起点にして、仲間づくりをしたいと考えています。独立研究者の私が他の研究者と繋がるには、このクラウドファンディングで支援を頂き、研究集会に参加することが有効だと思います。もう一つは、academistの威を借りて研究発信をしていくことです。他の研究者と並べられることで、独立研究者かつ僧侶という肩書の怪しさを薄めつつ、研究発信を始められると期待しています。

サポーターの方と一緒に研究できる可能性にも賭けています。リターンに設定している研究報告では、Zoomなどのツールを使ったインタラクティブな報告も考えているので、サポートしてくださる方も、アイデアや質問があれば放り投げて頂けると幸いです。

推薦者コメント

若桑 江有里
電気通信大学 情報・通信工学科 博士研究員

虚数は存在するのか? それにはどんな意味があるのか? 高校で数学を学んだ人なら誰もが一度は疑問に思うことでしょう。挑戦者は、近年めざましく発展してきた量子情報理論の観点にもとづいて、情報処理という新しい切り口でこの謎に迫ろうとしています。物理学において重要な役割を果たす虚数。そこに新たな一石が投じられると期待しています。               
      

Marco Túlio Quintino
ウィーン大学物理学研究科 博士研究員

私は宮崎さんが東京大学博士課程のときから一緒に研究し始めました。彼の発想と量子論へのアプローチ方法には感心します。彼との議論で生まれたアイデアは、私の研究で重要な役割を担っています。博士課程の後、宮崎さんは学術界を離れ、禅に身を投じました。幸い彼はまだ量子論への深い洞察で研究を続けています。また彼と議論できて嬉しいです。          
            

研究計画

時期 計画
2021年10月 月額支援型クラウドファンディング開始
2021年11月 資料の読み込み・未解決問題に取り組む
2022年5月 国内研究会にて発表
2022年6月 推定理論の応用を考察
2022年10月 論文執筆
2022年11月 国内研究会にて発表
2022年12月 月額支援型クラウドファンディング修了

リターンの説明

330 円/月 (税込)

注目のリターン : 活動報告閲覧権

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募集は終了しています

0人が支援しています。

(数量制限なし)

1,100 円/月 (税込)

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3,300 円/月 (税込)

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