物をどんどん細かくしていくと、最後にはどうなるのだろう——このような疑問を持ったことはありませんか? こうした問いに答える理論が、素粒子論です。しかし、理論物理学のなかでももっとも根源的な分野のひとつである素粒子論は、実はまだ完成されているとはいえません。太田さんは、素粒子の統一理論とも呼ばれる「超弦理論」の数理を用いて、素粒子の世界に潜む「対称性」を明らかにすることで、究極理論に挑もうとしています。数学と物理を股に掛けたチャレンジへ、ぜひ応援をお願いします!
突然ですが、みなさんは2次方程式の解の公式を覚えているでしょうか?
\( ax^2 + bx + c = 0 ⇔ x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 – 4ac}} {2a} \)
今、このページをご覧になっている方のほとんどは、中高生のころにこの解の公式を使って数学の問題を解いた経験があると思います。この解の公式を使えば、どんな2次方程式でも(複素数の解を含めれば)解くことができます。
ところで、2次方程式はどうして解けるのでしょうか? 言いかえると、2次方程式にはどうして解の公式があるのでしょうか?
解の公式が存在することは必ずしも当たり前のことではありません。2次方程式が解けるのは「2つの解を入れ替える変換に関する対称性」があるからです。方程式が解けるかどうかと、その方程式に対称性があるかどうかは密接に関係します。
さて、私の研究分野は理論物理学です。ここまでの話は純粋に数学の話のようにみえますが、これらが物理の研究とどう関係するのでしょうか? 実はとても深い関係があります。なぜなら「未知の物理法則を探るときの指針は、その物理法則がどのような対称性を持っているか(持つべきか)を知ること」だからです。突き詰めていうと、理論物理学、とくに素粒子論などにおいて根源的な法則を追求する研究は「物理法則の持つ対称性をいかにして見破るか」という営みなのです。
高校で物理を履修された方は、力学や電磁気学を学ばれたと思います。高校で習う力学の基礎方程式は「ニュートンの運動方程式」と呼ばれます。
\( ma=F \)
また、電磁気学の基礎方程式は「マクスウェル方程式」と呼ばれ、もう少し難しい4本の連立方程式になります。
これらの方程式には、先ほどの2次方程式のときと同様になにか対称性があるのでしょうか?
あります。
実はニュートンの運動方程式は「空間の座標を入れ替えるガリレイ変換に関する対称性」を持ちます。マクスウェル方程式には「時空の座標を入れ替えるローレンツ変換に関する対称性」と「内部自由度を入れ替えるゲージ変換に関する対称性」があります。
ニュートンやマクスウェルは物理学における最初の基礎方程式を見出した人たちなので、彼ら自身は対称性を意識していなかったと思います。むしろこれらの方程式に潜む対称性を発見した後世の人々が「対称性を明らかにすることは、物理法則を明らかにすることと同じだ」ということに気づきました。
それ以来、理論物理学の研究と対称性の考察は切っても切れない関係となりました。私の研究の課題およびモチベーションは、素粒子の統一理論と期待されている「超弦理論」の数理を駆使して素粒子の世界に潜む対称性に迫ることです。
素粒子論は理論物理学のなかでも最もミクロな領域を探究する分野です。超弦理論とは、物質の最小構成要素が素朴な点粒子ではなく、とてもとても小さなひも状のものであるとするアイデアです。超弦理論では、現在知られているすべての素粒子は単一のひもからできているとされ、その意味で素粒子の統一理論と呼ばれることもあります。
超弦理論には興味深いさまざまな数理構造があることがわかっていますが、いまだ全体像は解明されていません。とくに超弦理論が持つ対称性はまだ完全には明らかになっていません。しかし素粒子の統一理論といわれているからには、超弦理論には既知の対称性を含んだとても大きな対称性が潜んでいるはずです。
そこで私は対称性が高い場合に実現する「可積分性」という性質に着目し、素粒子の世界に潜む対称性を明らかにする研究をしています。可積分性とは方程式を完全に解くことができる性質を指します。2次方程式で例えると、解の公式が存在するということです。
大学院時代の博士論文では、素粒子物理学の背後に可積分性が潜んでいることを超弦理論の数理を用いて導出しました。さらに超弦理論の持つ双対性という性質を用いて、時空4次元の素粒子模型、2次元の統計力学模型、2次元の共形場理論、4次元の位相的場の理論という一見まったく異なる物理的セットアップのあいだにある等価性が成り立つことを示しました。
今後はツイスター理論、ミラー対称性、AGT対応といった数学と物理の境界領域に属するような手法を使ってさらなる研究を進めていきたいと考えています。
私の研究テーマは理論物理学の標準的な潮流からはやや外れたマニアックなものです。研究を続けるにつれ、年々自分の研究を周りに伝えることが難しいと感じることが増えてきました。人に研究内容を紹介すると、決まって「それって結局なんの役に立つの?」と聞かれます。
しかし日々の研究活動で実際に我々が考えていることは、実は多くの方が中高大学生の頃に一度は疑問に思うようなことです。宇宙の始まりはどんな様子だったんだろう。物をどんどん細かくしていくと最後にはどうなっているんだろう。数学者が有用性など考えず生み出した数学が、どうしてこんなにも分野を問わず役に立つのだろう——そんな疑問を持ち続け、その延長線上にある研究を今でも続けています。
とても面白いんだけれど認知度が低いという現状に常日頃から歯痒く感じています。本研究の雰囲気をたくさんの方に知っていただき、1人でも多くの方に面白い! と感じていただけたらと思っています。
また、昨今基礎研究が軽視される傾向にあるように感じますが、academistでの私の発信や皆様の協力を通して、「基礎研究こそ科学の発展を担う土台となりうる」のだということ示す一助となればと思います。
本プロジェクトを通じていただいた支援金は、研究費やサイエンスカフェ等のアウトリーチ活動の開催費などに使わせていただきます。私の研究や活動に興味を持っていただいた方はぜひご支援をいただけるとありがたく思います。どうぞよろしくお願いいたします。
2021年3月に大阪大学で理論物理学の博士号を取得し、4月からは東京大学数理科学研究科にて、数学コミュニティのなかで修行をさせてもらうことになりました。振り返ると私の興味は年々基礎研究の方向(俗世を離れる方向!?)へと向かっているような気がします。高校卒業後、工学部の機械工学系の学科に進学しましたが、もっと基礎的な研究への興味が日に日に大きくなり理論物理学へと転向しました。その後研究テーマは徐々に数学的なものになり、今では半分数学に足をつっこみかけています。少しずつ方向性が変わってきてはいますが、「そのとき一番面白いと感じることをとことん追求したい」というメンタリティだけは当時から変わっていません。
猫が一番好きです。猫になりたい。その次に、数学と物理が好きです。その次くらいにお酒が好きです。最近はミニマリストを目指して断捨離に励んでいるのですが、物を捨てすぎるとなにもなくなりますね(当たり前)。
(2021年8月追記)2021年8月より東京工業大学に移籍することになりました。引き続き研究員として上記の研究を続けていきますので、これからも応援お願いいたします。
時期 | 計画 |
---|---|
2021年4月 | 月額支援型クラウドファンディングプロジェクト開始 |
2021年8月 | 国際研究会 Strings and Fields にて講演予定 |
2021年9月 | 日本物理学会秋季大会にて講演予定 |
2021年10月 | 論文(その1)発表、学術雑誌への投稿(目標) |
2021年12月 | 国際研究会 KEK-THにて講演予定 |
2022年2月 | 論文(その2)発表、学術雑誌への投稿(目標) |
2022年3月 | 日本物理学会年次大会にて講演予定 |
注目のリターン : 活動報告閲覧権
活動報告閲覧権
支援者限定ページにて、毎月の活動報告を行います。研究の日々の様子や学会発表の裏話などをお伝えしていきます。活動報告に加えて、博士論文で行った研究の内容や新しく発表する論文についても少しずつ解説をしていきます。新しく勉強したことや面白いと思ったことも紹介していこうと思います。また今後私が書く論文に謝辞を掲載させていただきます。ご支援よろしくお願いいたします。ご支援には等しく感謝したいため、リターンに金額による差は設けておりません。
0人が支援しています。
(数量制限なし)
注目のリターン : 活動報告閲覧権(300円のリターンと共通)
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