Challenge period
2020-09-16 - 2022-08-31
Final progress report
Thu, 07 Jul 2022 23:28:30 +0900
Progresses
14 times
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18 people
Elapsed time
Wed, 16 Sep 2020 10:00:00 +0900
情報収集や海外旅行、留学などによって複数の異文化に触れる機会を持つと、「文化的アイデンティティ」も変化します。アイデンティティという個人の確立に必要不可欠なものが変化することで、個人の心理にはどのような影響があるのでしょうか? 心理学、社会学、政治学などを融合した「文化心理学」のアプローチでこの謎に挑むのが、岩田さんです。将来的には、研究結果を実践的に発展させていくことで、文化的アイデンティティの多様性が受け入れられる社会の実現を目指します。
突然ですが、あなたとはどんな人物ですか。
この質問の答え、それは「あなたがあなたである故」、つまりアイデンティティです。このアイデンティティを元に私たちは私たちらしく考え、感じ、行動します。心のなかで答えていただいたと思うので、私の答えをお伝えします。私のアイデンティティは日本生まれ、学生、女性、異性愛者、人見知りな性格、などです。そのなかでも文化的な側面があるもの(私の例でいうと日本生まれ)は文化的アイデンティティといわれています。
近年、旅客輸送技術の発展や政治的情勢などさまざまな要因によって母国以外の土地で暮らす移住者が世界的に増えています。また移住をせずとも、海外旅行、留学、インターネットを使った海外に関する情報の収集などの異文化体験も、普段の生活においてとても身近に感じられます。このように複数の文化を触れる機会を持つと、文化的アイデンティティも変化します。アイデンティティという個人の確立に必要不可欠なものが変化することで、個人の心理にはどういった影響があるのでしょう? 文化適応(acculturation)の研究は、その謎を解明すべく発展していきました。
もともと文化適応という言葉は、1970年代ごろには移住先の文化的価値観を取り入れ母国の文化的価値観から離れることを指して使われていました。今でいう同化主義(assimilation)に近い意義です。そしてその「文化適応」によって移住者はより高い幸福度(subjective well-being)や低い適応ストレス(acculturative stress)を得られるとされていました。
つまり「郷に入りては郷に従え」のルールを遵守し、いわゆる「現地の人のように振る舞い考えること」ができる人のみが、移住先でより幸せに、移住先での順応の苦労が少なく過ごせると認識されてきたのです。対して個人の多文化性(individual multiculturalism)、つまり移住先と母国文化どちらも受け入れ従う姿勢は、移住者にとって「文化適応の途中」であるとされてきました。
しかし、文化適応と個人の多文化性の研究が進むにつれて、その従来説は崩れることとなりました。Berryによって唱えられた文化適応モデル(acculturation model)によって、多文化の価値観や慣習に習う移住者の方が、そうでない移住者(移住先の国に同化している移住者も含む)に比べて幸福度が高く適応ストレスも低いことが調査を通じて示されました。
Berryの文化適応モデルは「文化適応」という言葉の元の意義を変えるほどの革新的な発見でした。しかしBenet-Martinezは文化適応モデルが示した「多文化をアイデンティティとする者は概して画一的な心理的反応を起こす」という結果に疑問を抱きました。
Benet-Martinezはその後、多文化アイデンティティを持つ人々のあいだの個人差を示す二文化統合モデル(Bicultural Identity Integration model)を提唱し、二文化統合質問紙(Bicultural Identity Integration Survey)を作成しました。この尺度によって、多文化である人々のなかでも幸福度や適応ストレスに個人差があり、その個人差は個人が内在化する複数文化のあいだの心理的距離によって推測されるということがわかりました。
この心理的距離というのは、言い換えれば「自分のアイデンティティとする複数の文化の価値観は共存できると感じ取るかどうか」ということです。例を挙げると、日本に住むアメリカ人にとって日本文化とアメリカ文化を「似ている、そしてひとつの文化に従うことでもうひとつの文化を自分が蔑ろにしているとは感じない」と思う個人は二文化統合値が高く、低い値を持つ個人と比べて移住先での幸福度が高く適応ストレスが低いのです。
ちなみに二文化統合値の低い個人は、たとえば日本文化とアメリカ文化を「相容れないもの」と知覚します。このようにBenet-Martinezは多文化アイデンティティを個人差の観点から紐解き、文化適応のより深い理解に貢献しました。
文化アイデンティティ統合モデルは、その説明変数や結果変数、さらには文化以外(宗教、性別、職業など)の複数アイデンティティへの汎化性など、理論的な発展の余地がたくさんあります。また、個人的に感じることとしては、多文化アイデンティティを持つ人々の実際の生活の助けをこの研究結果を通じてできないか、理論と実践の架け橋となるものは何かを模索しています。
二文化統合モデルの提唱者であるBenet-Martinezの指導のもと、博士後期課程を通じて多文化アイデンティティという分野の理論的、実践的発展に尽くしたいと考えています。
このクラウドファンディングは、経済的支援を必要としているという理由に加えて、以下の3つの目的で挑戦を決めました。
・自身の研究について発信することで、文化心理学という分野を広め、分野の発展に少しでも貢献したい
・クラウドファンディングを通じた研究費調達を自ら実践することで研究費獲得方法の多様性を広め、また、既存の奨学金などでは対象になりにくい研究分野(社会科学や心理学など)での研究も、資金獲得方法の多様化によって続けることができるというメッセージを後に続くチャレンジャーの方々に送りたい
・海外の大学に属す日本人(日本の大学を経由して行われる奨学金応募への参加権が無い)や、教育機関に属さないいわば在野研究者の方々もリーチアウトしやすい本プラットフォームの意義を訴えたい
ご支援は主に研究に必要な専門書や文献の購入費、学会やワークショップの参加費に充てさせていただきます。私の博士研究が実験参加者を必要とする場合は、実験の参加報酬としても使わせていただきます。
また、新型コロナウイルス感染症の状況に応じて、安全とみなした時点でスペインへ渡航し、プログラムへの参加をオンラインから対面に切り替えます。渡航後はスペイン、バルセロナでの生活費が必要となるため、ご支援を生活費にも充てさせていただきます。どうぞご支援をお願いいたします。
私はポンペウ・ファブラ大学の教授として、移民研究を社会心理学と人格心理学の観点から行っています。複数の文化をアイデンティティとして保持する人々(多文化人)は、移住の増加と急速なグローバリゼーションによって年々増えています。研究を通じて、多文化人の心理的メカニズムをよりよく理解し、世界中の人々の幸福を最大化する方法を見つけられたらと思っています。紗希さんの博士課程指導教官として、クラウドファンディングの成功を願っています。
紗希さんとは文化適応研究チームのメンバーとしてポンペウファブラ大学で出会い、彼女の研究に対する意欲に関心しています。紗希さんが取り組む多文化アイデンティティ研究は、現代社会の複雑な「文化の在り方」のさらなる理解に繋がりますし、また、移民や文化的マイノリティの方など、世界に何百万といる多文化な人々の心に訴えるものがあると思います。博士研究とクラウドファンディング、頑張ってください! 応援しています。
本ページをご覧くださりありがとうございます。岩田紗希(いわたさき)と申します。アメリカ合衆国での学部課程、イギリスでの博士前期課程を経て、スペインにあるポンペウ・ファブラ大学(Pompeu Fabra University)政治・社会科学部の博士後期課程に2020年の秋進学予定です。研究分野は文化心理学という、心理学、社会学、政治学などを融合した学際的で今後の発展が楽しみな分野です。博士後期課程1年目、少なくとも秋学期は日本からリモートでのプログラム参加が決まりました。やり切れない思いもありますが、指導教官やクラスメイトと心は密にコミュニケーションを取りながら、精一杯頑張ります。
Date | Plans |
---|---|
2020年9月 | クラウドファンディング開始/日本パーソナリティ心理学会2020年度ヤングサイコロジストプログラムにてプレゼン発表予定 |
2020年12月 | 学内にてプレゼン発表予定 |
2021年2月 | 学内にてプレゼン発表予定 |
2021年3月 |
学内にてポスター発表予定/クラウドファンディング終了予定
(2021年7月加筆)アカリク様からのご支援は2021年3月末に終了いたしましたが、クラウドファンディングは引き続き継続させていただくことになりました。引き続き、応援をよろしくお願いいたします。 |
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毎月、博士研究の進捗状況や授業での学びをシェアさせていただきます。また、文化心理学は専門書や文献だけでなく実際の文化を体験することでより知見を広げられます。スペイン(特に滞在予定地のカタルーニャ地方)の歴史や文化の情報を、季節や月に合わせてお届けします。
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