高校生のころに見たホログラムや大学学部生のころに使った光ピンセットをきっかけに、光の不思議に魅了されてきた大上さん。現在は、光学の最先端を研究する一流の理論科学者が集う国・イギリスへ渡り、媒質の界面での光の振る舞いに着目し、新しい現象の予言を可能にする理論的なアプローチに軸足を置いて研究を行っています。「大学や指導教員を頼らない研究もしたい!」という思いから、単著での学会発表や論文執筆にも積極的に取り組む物理学者のタマゴに、ぜひ応援をお願いいたします!
光の圧力、そう聞いて「ああ、なるほど。確かに毎日光圧感じているよ!」という人は、ほとんどいないと思います。高校物理で少し習う「圧力は粒子の質量に比例する(P ∝ Nmv2、N, m, Vは粒子の数・質量・速度)」という法則を思い出すと光の粒である光子は質量がゼロなので、光の圧力?? となおさら不思議な気持ちになってきます。
光が電磁波の一種であることを知り、電磁波の性質を記述するマクスウェルの理論を学ぶと、光は質量こそ持たないものの、「運動エネルギー」を持っていることがわかります。「なるほど、運動エネルギーを持つのなら、光にも圧力がありそうだ」と思えてきます。
光は何食わぬ顔で私たちの身の回りにいるけれども、意外とその性質や振る舞いには不思議な点が多いのです。光を研究することが、相対性理論や量子論と言った現代物理学で重宝される理論を生み出す種になってきました。上で挙げた光の圧力も、100年以上昔から物理学者たちの興味をかき立て、今でも研究が続けられています。私も、そんな光の不思議な振る舞いに魅了され、理論研究に取り組んでいる物理学者のタマゴです。
光の不思議な振る舞いを調べることは、誰もが知り得なかったことを解き明かすだけではありません。光は身近に使われているものがゆえに、さまざまな領域で役立ちます。たとえば、小さいものを見る顕微鏡、物質を分析・検出する分光やセンシング、大容量の情報を高速でやり取りできる光通信など、幅広い領域で新しい可能性を拓きます。
そのなかでも、媒質の界面での光の振る舞いには未解明なことが多くあります。つい1年ほど前に、私は誘電損失(光を吸収する性質)がある媒質の界面では光が「変な向きに回転」したり「過剰に運動エネルギーを獲得」したりすることを見つけました[2019年論文]。ほかにも、金属と絶縁体の界面における光の揺らぎによって、金属の構造が不安定になることを理論的に示しました[論文投稿中。プレプリントはこちら]。
界面がある系は、最もシンプルな不均一系と見ることもできます。一般的に、不均一な系における波の振る舞いを解析することは、そう簡単ではありません。水鳥たちが泳いでいる池の表面を観察すると複雑な波のパターンが見えることはその一例です(言うまでもありませんが、水鳥の形状は不均一です)。
光は先に述べたように電磁波の一種であり、その名前の通り、波としての性質を持っています。それゆえに、媒質の界面という不均一な場所で思いもよらない不思議な振る舞いをして見せることがあるのです。
特に、媒質中に存在する不均一性が時間依存な場合、
1. 光がどのように反射・屈折するか
2. 光が媒質にどのような影響を及ぼすか
を調べる良い計算手法は今のところ知られていません。
そこで、不均一・時間依存な界面での光を計算する手法の確立に向けて、現在私は複数のプロジェクトでケーススタディを行っています。
たとえば、所属しているImperial College Londonでは、高速振動する回折格子(不均一かつ時間依存な界面の最もわかりやすい一例!)による光の回折の計算に取り組んでいます。このプロジェクトでは、電磁波の基礎方程式であるMaxwell-Heaviside方程式に時間と空間に依存する座標変換を施し、これを用いてウネウネと動く回折格子による光の回折を調べています(図1)。
また、先日academistを通じて資金調達をさせていただいた、単純なスネルの法則では説明がつかない、動く媒質や熱された媒質の界面で、光がどのように振る舞うかというテーマに関しては、異分野である量子力学で使われるテクニック(たとえば、密度演算子を用いたダイナミクスの定式化や、グリーン関数を用いた輸送現象の計算)を用いた解析を試みています(図2)。
ほかにも、異分野の研究者とのコラボレーションにも取り組んでおり、不均一な系にいかにして挑むかということを考え続けています。たとえば、金属絶縁体界面における光と電子スピンの相互作用を、Maxwell-Heaviside方程式のほかに拡散方程式も用いて解析を行いました[中国科学院大カブリ理論科学研究所松尾准教授との共著論文](図3)。
私は、高校生のころにホログラムを見て、大学学部生のころに光ピンセットで微生物を「摘んで」以来、夢中になって、光の研究を続けてきました。
学部4年次には「光の圧力」の実験研究で卒業論文を書きました。実験をするだけでなく、目の前で起こっていることの仕組みを解明すること・誰も知り得なかったことを予言することに興味を持ち、修士課程ではコンピュータシミュレーションを用いて研究しました。
シミュレーションだけでは満足できず、博士課程からは軸足を理論研究へ、研究拠点をイギリスへ移しました。というのも、イギリスは光学理論の国だからです。ニュートン、ファラデー、マクスウェル、ヘヴィサイド。熱された物質の発光を研究して、古典的な光学の限界を浮き彫りにしたレイリーもジーンズも、皆イギリスで光の理論研究をしました。今もイギリスには光学の最先端を研究する一流の理論科学者が大勢います。
理論研究は、実験設備やコンピュータに頼ることなく、物事の本質を抉り出す物理の醍醐味を感じることができる、とても刺激的でおもしろいものです。その理論的アプローチのおもしろみを享受するためには、広くアンテナを張って、常にさまざまな想像を膨らませられることが何よりも大切だと思っています。それゆえに、多様かつ最先端の知識と知恵を吸収できる海外の博士課程という道を選択しました。
本月額支援型のプロジェクトでいただいた支援金は、海外での生活費や、研究に使う文献の購入などに充てさせていただきます。
大学院生が指導教官や大学を頼らず独立して研究を進めるのに、最大のボトルネックになるのが研究資金の調達だと思います。というのも、博士号を持っていない者が応募できる研究費がほとんどないためです。そこで、私は以前スポット支援型のクラウドファンディングに挑戦しました。そして、今回、月額支援型のクラウドファンディングに挑戦します。
確かに、未熟ともいえる大学院生に大きな研究費をつけることは難しいかもしれません。しかし、若くて独立している科学者だからこそ、独自の着眼点や柔軟な発想力を持っていて、課題に我武者羅に取り組むパワーと軽いフットワークを持っているともいえます。これらのスキルは、誰も知らなかったことを解き明かす研究活動を続けるのに、大きなアドバンテージになると思います。
この月額支援型のクラウドファンディングは、まさに、若くて独立した科学者の自由な活躍を支えてくれるプラットフォームだと思います。ときにアンバランスでも少しずつ自立して研究の世界を歩む私に、もしくは私が取り組む研究やその応用に、興味を持っていただいた場合は、ご支援をいただけるとありがたく思います。
光が大好きなPhD student(Imperial College London、博士後期課程2年)です。好きが高じて、大学や指導教員を頼らない研究もしたい! と単著での学会発表や論文執筆もしています(cf. 過去のクラウドファンディング)。学部・修士時代は、集束イオンビーム装置による微細加工、原子間力顕微鏡のプローブ設計、量子もつれ光子対発生源の高効率化などの実験、有限要素法や有限差分時間領域法を用いたコンピュータシミュレーションなどさまざまなことに取り組みました。いろいろなことを我武者羅にやってきましたが、いつでも波動や物質の物理に興味がありました。今では、物理の本質を炙り出し、さらには新しい現象の予言を可能にする理論的なアプローチに重心を置いて研究しています。
Date | Plans |
---|---|
2020年7月 | 月額支援型クラウドファンディングプロジェクト開始 |
2020年7月 | 学術雑誌への論文投稿(目標) |
2020年8月 | 学術雑誌への論文投稿(目標) |
2020年9月 | 日本物理学会2020年秋季大会にて口頭発表 |
2021年6月 | 2nd International Summit on Optics, Photonics and Laser Technologies, Los Angelsにて招待講演(予定) |
2021年9月 |
Imperial College London博士後期課程修了(目標)
(2021年10月追記)
|
2022年4月 | University of Lisbonへ博士研究員として移籍 |
2022年7月 | 学術雑誌への論文投稿(目標) |
2022年9月 | 日本物理学会秋季大会にて口頭発表 |
2023年1月 | 学術雑誌への論文投稿(目標) |
2023年3月 | 日本物理学会春季大会にて口頭発表 |
2023年9月 | 月額支援型クラウドファンディングプロジェクト終了 |
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