みなさま、いつもご支援・ご声援をいただき、誠にありがとうございます。宮川です。
おかげさまで本プロジェクトは目標金額を達成することができました。改めて心より御礼申し上げます。
今回は、2026年9月28日から30日にかけてモロッコの古都フェズで開催された国際会議LaTeLL 2026(LAnguage TEchnologies for Low-resource Languages)で研究発表を行いましたので、そのご報告をいたします。
■ LaTeLL 2026とは
LaTeLLは、話者数やデジタルデータが少ない「低資源言語」のための言語技術を専門に扱う国際会議です。世界各地の少数言語・危機言語・歴史言語を対象に、機械翻訳、コーパス構築、音声処理などの研究者が集まりました。今回は並行セッションを設けず、すべての発表をひとつの会場で聴く形式だったため、さまざまな言語の事例を通して、低資源言語が抱える共通の課題を参加者全員で共有できる場となりました。
■ 発表内容
発表題目は「Retrieval-Augmented Translation for Bohairic Coptic: A Pilot Benchmark and Hallucination Analysis」(コプト語ボハイラ方言のための検索拡張型翻訳:パイロット・ベンチマークとハルシネーション分析)です。査読を経て採択され、会議のプロシーディングス(論文集)にも収録されます。このプロシーディングズはACL Anthologyに掲載されます。ACLは世界最大のコンピュータ言語学会です。なお、この自然言語処理分野では、ACL Anthologyに掲載される国際会議プロシーディングズは業績として大変重視されます。
ボハイラ方言は、現在もコプト正教会の典礼で用いられているコプト語の方言で、本プロジェクトで作成する教材の中心となる言語です。発表では、私が開発しているコプト語翻訳AI「THOTH AI」を取り上げました。THOTH AIは、コプト語辞書、コプト語コーパス(Coptic SCRIPTORIUM)、文法書などの資料を検索し、その根拠を参照しながら翻訳を行う「検索拡張生成(RAG)」という仕組みを用いています。
評価実験では、修道院長シェヌーテの伝記『シェヌーテ伝』(Vita Sinuthii)のコプト語ボハイラ方言の一節を英語に翻訳させ、THOTH AIと7種類の汎用大規模言語モデル(LLM)の出力を比較しました。その結果、同じ基盤モデルに資料検索を組み合わせることで、複数の自動評価指標で翻訳精度が向上することが確認できました。
また、誤訳の種類を、語彙の誤り、文化的な用語の選択、形態統語論的なずれ、訳抜け・付け足しなどに分類して分析しました。特に注目したのは、一部のモデルが、原文には存在しない「聖人伝らしい」流暢な文章を作り出してしまう現象(ハルシネーション)です。一見もっともらしい訳文であるだけに、学習者が気づかずに誤った理解をしてしまう危険があります。
■ 本プロジェクトとのつながり
この結果は、本プロジェクトで開発するAIデジタル教材にとって重要な意味を持っています。汎用AIにそのまま頼るのではなく、信頼できる辞書・文法書・コーパスに基づいて根拠を示しながら答えるAIであることが、コプト語の学習者、とりわけ自らの言語と文化を学び直そうとするコプトの方々にとって不可欠だと考えています。今回の発表で得た知見と、査読者や会場の研究者からいただいたコメントを、教材の設計にしっかりと活かしてまいります。
引き続き、本プロジェクトの進捗をご報告してまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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