■ 1月の活動報告:数論と物理の不思議な対応関係
今月は、私の研究の核となるBost-Connes(ボスト・コンヌ)系の「圏化」という作業に集中して取り組みました。
少し長くなりますが、この理論がいかに不思議で魅力的か、専門用語を控えめにしてご紹介したいと思います。
1. 数学と物理の「種明かし」
まず、この研究の背景には「純粋数学(数論)」と「量子物理学(統計力学)」という、本来交わるはずのない二つの世界が、実は鏡合わせのような関係にあるという驚くべき事実があります。
数学の世界には、素数の分布を司る「リーマン・ゼータ関数」という非常に重要な関数があります。一方で、物理学の世界には、系のエネルギー状態を記述する「分配関数」というものがあります。
Bost-Connes系において、この二つは以下のような美しい等式で結ばれます。
$$ Z(\beta) = \prod_{p: \text{prime}} \frac{1}{1 - p^{-\beta}} = \zeta(\beta) $$
真ん中の項は、素数 \( p \) に関する無限の掛け算(オイラー積)です。
この数式が意味しているのは、「数学的な素数の一つ一つが、物理学的な振動(ボソン)の一つ一つに対応している」ということです。つまり、素数を調べることは、ある種の量子系を調べることと完全に等価なのです。
2. 「圏化」というアップグレード
今月私が取り組んだ「圏化(Categorification)」は、この等式が成り立つ理由を、より深いレベルで理解するための作業です。
上記の数式はあくまで「数値(数)」の等式ですが、圏化とはこれを「構造(集合や空間)」の等式へとアップグレードさせることを指します。
例えるなら、これまでは建物の「影(数値)」だけを見て形を議論していたのに対し、圏化によって「3次元の建物そのもの(構造)」を直接扱えるようにする、といったイメージです。
これにより、従来の計算では捨てられてしまっていた「対称性の破れ」に関する微細な情報を、より精密に捉えることが可能になります。
■ 大学院受験の状況報告
1月は研究と並行して、海外大学院への出願手続きとその結果への対応に追われていました。
幸いなことに、現時点で以下の大学院から合格(Offer)をいただいております。
・ハーバード大学
・ジョージア工科大学
・ワシントン大学
・ウォータールー大学
また、スタンフォード大学 については、先日面接を終え、結果を待っている段階です。
3月には、実際に合格した大学のキャンパスを訪問する「Visit Days」に参加する予定です。研究環境、指導教官候補との相性、そして街の雰囲気などを直接肌で感じた上で、今後5年間を過ごす場所を最終決定したいと考えています。
皆様からのご支援が、こうした挑戦の大きな支えとなっています。春には良いご報告ができるよう、引き続き研究と準備を進めてまいります。
11月の活動として、夏から取り組んできた研究プロジェクト「Compactification of quasi-local algebras on the lattice」が一区切りし、Caltech 内で成果発表を行いました。(セミナートークの動画はこちら)プレプリント(未査読論文)もほぼ完成しているので、来月プレプリント用データベースarXivにアップロードします。同時に、論文誌「Communications in Mathematical Physics」に提出し、現在査読審査を待っています。
テーマは、量子コンピューターなどの基盤となる「多くの粒子が相互作用し合う量子の世界」を、数学を使ってどのように記述するか、というものです。
どんな状況を考えているのか
電子や量子ビットが、マス目状(格子状)にたくさん並んでいる様子をイメージしてください。
1つの電子だけを見るときには、その「向き(スピン)」や「運動の状態」などを測ることができます。2つの電子をまとめて見ると、それぞれのスピンの和や差といった、新しい量も考えられます。
このように、どの範囲(領域)に注目するかによって、その領域ごとに「観測できる量」の集まりができます。
数学的にはどういう研究か
領域ごとの「観測できる量の集まり」は、ただのリストではなく、
・足し合わせる
・続けて測る操作として掛け合わせる
といった計算ができる、ひとつの代数的な構造になっています。
こうした構造は数学ではquasi-local C*-algebraと呼ばれ、量子力学や量子情報の理論的な土台として重要です。
今回の研究では、この quasi-local C*-algebra について、「ローカル(限られた領域)」の情報と「グローバル(系全体)」の情報の対応関係を整理しました。小さな領域ごとの情報をどのように積み重ねると、無限に広がる格子全体のふるまいを、矛盾なく・きれいに記述できるのかを調べています。
背景にある数学と意義
この分野の背後には、圏論や作用素環論、さらにその背景にあるホモトピー論など、現代数学のさまざまな理論が関わっています。
局所的には「近くの粒子どうしの弱い相互作用」しか考えていないのに、全体としては「物質の性質」や「相転移」のような大きな現象が現れることがあります。
今回の研究は、こうした「局所から全体がどのように立ち上がるか」を理解するための、理論的な基礎づくりの一部となることを目指したものです。
謝辞
本研究を進めるにあたり、以下の皆様から多大なるご支援・ご助言を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。
Nori Ohata 様
イヨダアキヒコ 様
高橋 佳大 様
塩田顕二郎 様
M.I 様
海野真司 様
一般財団法人 阿部 亮 財団(ABE RYO FOUNDATION)様
シミズイネコ 様
ヤナギレオ 様
ナカタタイセイ 様
松岡寛 様
Takashi Nakayama 様
他サポーターの皆様
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お礼のメッセージ
13
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(数量制限なし)
研究報告レポートにお名前掲載 他
2
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オンラインサイエンスカフェ 他
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論文謝辞にお名前掲載 他
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学士論文謝辞にお名前掲載 他
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個別ディスカッション 他
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カリフォルニア工科大学バーチャルキャンパスツアー 他
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出張講義 他
1
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