福島県二本松市および群馬県みなかみ町において昆布を用いた正月飾りについて現地調査を行いました。
当初は、1月4日から2泊3日での調査を予定していましたが、羽田空港での事故の影響で実施できず、1月30日から2泊3日で実施しました。
進捗報告 vol.05では、福島県二本松市東和地区での調査について報告します。
1月30日に当地に到着し、その日の宿である農家民宿「遊雲の里」(③)にて、お正月飾りや、かつてのお正月の過ごし方や当地の暮らしについてお話を伺いました。
当地の昔話を数多く採話し、地域や小学校で語り部として活動するほか、何冊もの著作を出版するなど幅広く活動されている方からお話を伺い、「おらほの正月」として当地の昔からの年末年始の過ごし方について教えてていただきました。
「おらほの正月」
12月
▶「煤掃き」:長い竹の先に竹笹を結わえて蜘蛛の巣や煤を掃きおろす。
▶「障子張り」:紙代も容易でないので、破れたところだけ張る。
12月24~25日
▶「納豆ねせ」:3日納豆は食うもんではないという謂われがある。
12月下旬
▶注連縄用の藁を湿らしておく。
▶「門松受け」:高い山から受けてくると運が下がるといわれて、低い山から受けてくると運が上がるといわれた。所有する山がない人はどこの山からでもいただいて良い。しかし、脇枝に限る。芯松は切らない。「農のはじめ」の松も2本とる。
12月30日
▶「餅搗き」:29日は9餅(苦餅)となるといわれ、搗かない。鏡餅と、木の枠に固める型餅をつくる。
▶「注連縄」(②):左縒り。昆布(よろこんぶ)のほか、干柿(かき集める)、木炭(すみからすみまで)をつける。
12月31日
▶歳神さまの棚をつくる:注連縄を飾り、尾頭付きの魚を供え、昆布を下げる。大歳神の御札を張り、御神酒をあげる。
▶「箍注連」(⑦):土蔵、玄関、納屋、作業場、味噌蔵、農機具、産土様、畜舎、井戸、風呂場、雪隠、仏壇、台所に飾る。「輪どうし」ともいう。
▶「歳とりのごちそう」:年男は風呂に入ってからする。産土さまにすべてのごちそうを供えてくる。家主が御神酒を注ぎ、家族揃って御神酒をいただき、挨拶をする。
▶土蔵の中の掛け軸を部屋や床の間に飾る。
▶七・五・三の縄張り(⑥)
1月1日
▶「元日」:年男は早起きし(1時~3時)、最初に若水を汲んできて、歳神さまに供える。神棚に灯明をつけて鏡餅を飾る。中折紙は半分を前に垂らす。元日参りは隠津島神社(木幡の弁天さま)に初詣。
▶「餅供え」:「箍注連」を飾ったところすべてに餅を供える。そのほか、「おふくさま」にもあげる。
「おふくさま」とはねずみのこと。
▶「やしきの年始廻り」:年男が各家を挨拶して廻る。各家は、年男を玄関でお出迎えする。一日中来客がある。
1月2日
▶「親戚の年始廻り」:型餅を10枚を藁でまるき(束ね)、手ぬぐい1本にのしをかける。付木3束。吸い物と餅をごちそうする。
▶「初夢」:折り船を折って、回文を書き、枕の下にして寝ると、良い夢を見られるという。「ながきよの とおのねふりのみなめざめ なみのりふねのおとのよきかな」。
1月3日
▶「3日とろろ」:すり鉢で薄くゆるめてとろろ汁をつくり、ご飯にかけていただく。3日とろろを食わないと芋子(むかご)になる。風邪をひかないように。
1月4~5日
▶「年始廻り」
▶「花嫁御年始」:前年に結婚した人は、姑が2人を連れて兄弟、叔父伯母、すべての家をまわる。
1月6日
▶「6日の歳とり」:大歳とりと同じごちそうを供える。
1月7日
▶「七草粥」:6日の夜に供えたごはんや煮〆などを細かく切って、芹などを入れて炊く。
1月11日
▶「農のはじめ」(④):朝早く白い木綿の袋に切り餅、米、田づくりを入れて、拝松と鍬と鉈を持っていく。田んぼと畑の土に松をさして拝む。鍬で「一鍬でざっくりこ、二鍬でざっくりこ、三鍬で金銀財宝掘りあてた」と唱える。帰りに木の小枝を鉈で切り、持ち帰り、その枝で朝ごはんを炊く。
1月14日
▶「団子さし」:屑米を水で洗い、干し、臼に入れて杵で叩き、ふるいでふるった粉を丸めて、団子をつくる。「だんごの木」をとってきて、すす玉の穴にさして立て、丸めて茹でた団子をさす。にぎった長い団子(16団子)や祝いせんべい(鯛、大黒、大判など)を飾りつける。
▶「木まじない」:子どもたちが藁で作った「すがい」(すがい縄)を柿の木に結わえつけ、鉈で木に傷をつけ、「なるか、ならぬか」と2~3回叩く。片方の子どもが「なりもうす、なりもうす」という。すると、傷口に団子の煮汁をかけてまじないをする。
▶枯れた蓬の枝をだんごの煮汁に浸して、粉をいっぱい真っ白くつけて稲穂をつくり、それを大黒柱に結わえ付けた。
▶「棚さがし」「14日の歳とり」:歳とりと同じ供えものをした。
1月15日
▶「歳神さまおくり」:年男は若水を汲んできて、その水を入れて赤飯を炊き、神棚に供え、家族みんなで食べ、注連縄や箍注連、すべてのものを集めて縄でまるき(束ね)、産土かみさまの後ろの大木に結わえつけ、歳神送りとする(⑧)。鏡餅や歳神さまの棚もおろし、来年のために土蔵にしまっておく。
1月16日
▶「女の小正月」:女は仕事を一切せず、仕事を休む。男の人が家事をする。正月と盆の16日は地獄のフタも休むという言い伝えが伝えられていた。
1月20日
▶「歯固め」:15日に棚からおろした鏡餅は乾いて割れているので、小さくぶっかき、燠(おき)の中や火床炭(ほどあく)の中でこんがり焼き、爺さまが「虫歯になんねえように食えよ」といって、みんなでかりこり、かりこりと食った。残った餅は水餅(水に浸して長期間保存する)にしておいた。
2月
▶「節分」:「節分」も「歳とり」といって、大晦日と同じごちそうを供える。忌引きで正月ができなかった人はこの時に「大歳とり」をする。「鬼の頭」といって、イワシの頭につばを付けて焼いたものを豆がらの枝にさして、戸窓にさした。
翌日の1月31日、当地の正月飾り作りの名人のお宅で、当地のさまざまな正月飾りを見せていただきながら、お話を伺いました。
当地の昔からの家では、歳神様の棚を吊し、しめ縄を飾り、昆布を下げ、大歳神のお札を貼り、御神酒と尾頭付きの魚を供えるそうです(①)。
しめ縄には、3連の串柿を昆布で挟み紙で包んだものと炭、みかんをつけます。「すみ(炭)からすみまでかき(柿)集める」とのこと。
また、歳神様の棚の両脇に供える三階松(3層に枝分かれした松)には、麻ひもと昆布をつけます(①)。
注連縄に用いるわらは、かつて蚕のあみを作るのに用いていた背の高いわらを別に作り、8月のお盆を過ぎた頃、青いうちに刈り、陰干ししておくとのこと'⑦)。
形の良い注連縄を作るためには、苦労も多いようです。太い注連縄(⑤)を綯う際には奥様の協力も欠かせないのだとか。
福島県も広く、浜通り、中通り、会津で異なる文化、風習があり、会津に関しては山形県とのつながりも深いことから日本海沿岸地域と似通った要素が見つかることが予想されました。
ところが、今回の調査を通して、中通りに位置する二本松市の正月飾りや正月の風習にも昆布が根づいていることがわかりました。
このことから、今後は、内陸部や太平洋沿岸地域にも範囲を拡大し、昆布を用いたお正月飾りについて調べていく必要があることを改めて感じているところです。
他方、今回宿泊した農家民宿「遊雲の里」は、「東和グリーンツーリズム推進協議会」「ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」などの活動に参画しており、宿のご主人も奥様もその中心的存在として活躍していることもあって、ふるさとづくりやグリーンツーリズムについてもさまざまなお話を伺ったほか、東日本大震災および福島第一原発の事故の際の避難者の受け入れ地域であった時の話や、未だにタケノコやキノコ、タラの芽などの山菜の採集が許可されていないなどその後の影響が続いており、東京や福島の大学の先生方と再生に向けた取り組みを行っているなどの話も伺うことできました。
農家民宿「遊雲の里」
https://yuunosato.jp/
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