イタリアに滞在しながら国立ミラノ大学の在外研究員として研究を進める一橋大学大学院社会学研究科の増永さん。映画『ロミオとジュリエット』や漫画『チェーザレ:破壊の創造者』などの作品を通して、ルネサンス期のイタリアに魅せられ、イタリア史研究者を志しました。ルネサンス期のイタリアといえば、ラファエロやミケランジェロなどの芸術が注目されますが、近代以降の「外交」という枠組みに回収できない政治文化についても注目を集めているそうです。増永さんは実際にイタリアに滞在して現地の文書館にしかない史料を解読することで、ルネサンス期イタリアの政治文化の実像に迫ります!
私が研究するルネサンス期イタリアについて高校世界史では、イタリア戦争(1494-1555)、芸術、マキァヴェッリの登場に触れた後、宗教改革に移ってしまうため、あまりページが割かれていない印象です。それにもかかわらず、ラファエロやミケランジェロなど当時の芸術は日本でも人気を集めています。それでは、ルネサンス期イタリアとはどのような時代だったのでしょうか?
そもそもルネサンスという時代区分の是非についてもまだ議論がなされていますが、ここでは15世紀後半から16世紀にかけての時期を指すことにします。イタリアに目に見える形で現代まで残るような芸術作品や建築を製作したのはもちろん芸術家でしたが、その背後にはパトロンとなって彼らを支える君主・権力者がいました。絶えず争いが行われながらも、優れた芸術や学問が発展した時代、それがルネサンス。私の研究では、ルネサンス期イタリアの政治の側面に焦点を当て、特にローマ教皇庁が統治した「教会国家」(Lo stato della Chiesa)について分析を進めています。
ルネサンス期イタリアについて、政治史・経済史・制度史・外交史など、19世紀以降、膨大な研究が蓄積されてきました。1970年代以降、中世末期以降のイタリアの都市国家が、他都市を併合し広域的な統治を行っていたことが評価されるようになると、以降「地域国家」(Lo stato regionale)という分析概念のもと、イタリア政治史が展開していきます。
その過程で、ローマ教皇が聖俗の君主のように統治を行った「教会国家」についても、教皇庁内の官僚機構、財政、外交などの側面から研究が進められていきました。教会国家が統治した地方都市についても、1990年代以降に分析が進められていますが、中央の教皇庁と地方都市の関係や統治の実態は研究の余地があります。
私は、教皇領のなかでもとくにウンブリア地方(ペルージャ、スポレート、トーディなど)を取り上げ、1490年代から1500年代初頭にかけての統治のありかたを検討しています。
現在イタリアには、他の地域・国に比べて多くの古い史料が残存しています。それはひとつに中世以降商業が発展し、教会や修道院が多く存在していたイタリアには、文書を残すという文化が早くからあったためでした。私が進めている研究では、地方文書館やヴァチカン、ローマに所蔵される文書の解読が必要ですが、とくに地方文書館については文書へのアクセス自体が難しく、またデジタル化される見込みもありません。目録も現地に行って参照するため、まさにその地に行かないとどのような文書がどれくらい残っているのかわかりません。
私は地方の文書館に足を運び、文書の撮影・解読を行うとともに、実際にその都市を歩き、政治抗争の舞台をフィールドワークしていくつもりです。
人文学の研究者になることは高校生の頃に決めました。もともと古典や文学、歴史に関心があり、それらを学ぶだけではなく学説を生み出す側の研究者になりたいと思ったからです。
学部入学時には国文学や日本史、東洋史を専攻しようと思っていたため、中国語を第二外国語に選択し準備を進めていました。ところが、途中でマキァヴェッリの『君主論』を読んだり、西洋史学の教授が開講する学部生向けの授業を受けたりした頃から、西洋史、特にイタリア史を研究したいと思うようになりました。
西洋系の語学(イタリア語・ラテン語)は、ゼロからのスタートであったため苦労しましたが、勉強は楽しく進めました。「勉強は」と書きましたが、それは今まさしく「勉強」と「研究」の狭間で奮闘しているからです。着実にコツコツと基礎を固め、世界の研究者たちと議論ができる研究者になりたいと思っています。
academist Fanclubにチャレンジする第一の理由は、現在滞在するイタリア・ミラノでの研究を継続させたいからです。ビザや滞在許可証の手続き、アジア人として受ける待遇など生活の面で大変なことは多々ありますが、簡単には日本で手に入らない文献を大学図書館で参照しつつ、史料調査の際に撮影してきた史料を日々解読しています。さらには、イタリア人の教授により開かれるシンポジウムに参加するなど、ミラノ大学は、イタリアのアカデミズムに触れつつ研究を進めるには最良の環境だと思っています。また、その都度ごとの計画の見直しが必要ですが、イタリアで博士論文を仕上げることも視野に入れています。
academist Fanclubでいただいたお金は、イタリアでの生活費および史料調査や学会参加の出張費に使わせていただきます。日本と違って、休みの日はきっちり休むお店や公共機関のスタンスに、多少の不便さを感じることはありますが、さすがは農業大国というだけあって安定した価格の食材を使って自炊することもできますし、また歴史ある街歩きを楽しむなど、案外お金をかけることなく研究に向き合うことができます。また、クラウドファンディングによる生活をひとつの海外留学のスタイルとして、後に留学する方の参考になることができたらと思っています。
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チャレンジャーの大学院生に直接連絡をとることはご遠慮ください。共同研究のご依頼などは当社お問合せフォームからお願いいたします。
はじめまして、増永菜生(ますながなお)です。現在は、一橋大学大学院社会学研究科の博士後期課程に所属しながら、国立ミラノ大学にて在外研究員としてイタリアに滞在中です。イタリア史を専攻する身として、イタリア語文献が充実した大学図書館、また各都市への文書館へのアクセスを考えるとこれほど研究に適した環境はありません。現地に滞在できる機会を十分に生かして、日々研究に励みたいと思います。
Date | Plans |
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2019年1月 | academist Fanclub 開始 |
2019年3月 | イタリア近現代史研究会報告 |
2019年夏頃 | 論文投稿予定:「フィレンツェの領域統治:ヴォルテッラ反乱(1472年)の事例より」 |
Featured : 活動報告閲覧権
活動報告閲覧権
Web上に、イタリアからの研究活動報告を掲載します。とはいえ、歴史学研究は、すぐに新しいことがわかるとは限らず、じっくりと時間をかけることが必要です。そこで、滞在先のミラノを中心に、調査で赴いた都市やミラノで開催される専門に関連する展覧会・美術館についても、より読み応えのある報告をお送りします。
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