御手洗 容子
東京大学 大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 教授
高校生の頃、「ロボットを作ってみたい」と思っていました。その夢から機械工学を志望しましたが、進学したのは第二希望だった金属工学科でした。しかし、そこで出会った「材料」の世界が、私の人生を大きく変えました。
特に心を惹かれたのは、ジェットエンジンのような極限環境で活躍する耐熱材料です。華やかな航空機や発電設備も、その性能を支えているのは目立たない「材料」です。大学では次世代耐熱材料チタン・アルミニウム合金(TiAl)を研究し、その後も一貫して耐熱材料の研究に取り組んできました。
耐熱材料の開発は、単に丈夫な材料を作ればよいわけではありません。高温で何千時間も使っても壊れないこと、加工しやすいこと、酸化や腐食に強いことなど、多くの条件を同時に満たす必要があります。一つの性能をよくすると別の性能が悪くなることも多く、そのバランスを追求することが材料研究の醍醐味です。目には見えない材料の工夫が、航空機やエネルギー技術の未来を支えているーその面白さに魅了され、私は研究を続けています。
私は、より環境にやさしく、安全で持続可能な航空機や発電システムを、材料の力で実現することを目指しています。
ジェットエンジンや火力発電のガスタービンは、高温で燃料を燃焼させて大きなエネルギーを生み出しています。自動車では電動化が進んでいますが、大型航空機を電気だけで飛ばすことはまだ容易ではありません。そのため、航空分野では、廃食油や植物由来原料などから作られるSAF(持続可能な航空燃料)の利用が進められています。こうした新しい燃料を安心して活用し、さらに燃費を向上させるためには、これまで以上に、高温や酸化・腐食に強い耐熱材料が欠かせません。
現在主流となっているニッケル(Ni)基超合金は、高温下でも高い強度を維持できる微細な立方体状の組織を有しており、航空機エンジンを支える要の材料です。しかし、エンジンの熱効率追求に伴い、燃焼温度がさらに上昇したことで、既存の材料は性能の限界に直面しつつあります。そこで私は、新しい合金設計によって次世代の耐熱材料を作り出す研究に挑戦しています。
私が目指しているのは、ジェットエンジンを支える新しい軽量耐熱材料の開発です。近年、Ni基超合金とよく似た組織が、チタン(Ti)やクロム(Cr)を主成分とする新しい合金でも形成されることがわかってきました。TiはNiより軽いため、実現できれば、航空機の軽量化による燃費向上や二酸化炭素排出量の削減につながる可能性があります。私たちはこれまでに、この特徴的な組織を持つ新しい合金をいくつか発見してきました。
一方で、開発を進めている新しい合金には、現状では脆くて割れやすいという大きな課題があります。そこで、私たちは、材料だけでなく「作り方」も変えるというアプローチに挑戦します。注目しているのは金属3Dプリンターとして知られる積層造形技術です。この技術は複雑な形状を作れるだけでなく、結晶の向きを制御することで、一方向凝固材や単結晶材のような高性能な組織を形成できる可能性があります。金属は、冷えて固まるときにできる「結晶の境目」から割れやすいという特徴があります。そこで、結晶の向きを一方向にきれいに揃えたり(一方向凝固)、あるいは境目そのものをなくしたり(単結晶)することで、壊れにくい構造を作ることができます。これにより、新材料の弱点である脆さを克服できると期待しています。
実際に試作を進めた結果、融点の高い元素を含む合金では造形が難しいという新たな課題も見えてきました。そこで、本研究では、積層造形に適した新しい合金組成と製造条件を同時に開発し、材料とプロセスを一体で設計することで、次世代の軽量耐熱材料の実現を目指します。
今回の研究では、次世代軽量耐熱材料を実現するための第一歩として、「金属3Dプリンター(積層造形)」を用いて新しい材料を作る技術の確立に挑戦します。対象となるのは、Ni基超合金と同じように立方体状の微細な組織を持ちながら、より軽量なTi系・Cr系の新しい耐熱材料です。
まずは、複数の合金について積層造形を行い、どのような組成が造形に適しているのかを明らかにします。
通常、金属3Dプリンター用の合金粉末は、まず合金を溶かしてインゴットを作り、それを粉末化して製造します。しかし、この方法はコストが高く、実際に使用できる粉末は製造した粉末の一部に限られます。新しい材料を探索する研究では多くの組成を試す必要があるため、この方法では時間も費用も大きな負担になります。そこで、本研究では、純金属粉末を必要な割合で混ぜ、積層造形と同時に合金を作る新しい手法に挑戦します。これにより、より多くの材料を効率よく試すことが可能になります。
さらにレーザーや電子ビームの照射条件を工夫することで、結晶の向きをそろえた「一方向凝固材」や「単結晶材」の作製を目指します。これが実現すれば、これまで材料の弱点だった脆さを克服できる可能性があります。
この研究で得られる最も大きな成果は、「新しい耐熱材料を作る方法」を確立できることです。これまで実験が難しかったTi系・Cr系材料について、本来の高温強度や変形の仕組みを詳しく調べられるようになり、新しい耐熱材料の設計指針につながります。また、立方体状の組織が高温でどのような役割を果たしているのかを明らかにすることは、材料科学の発展にも大きく貢献します。
本プロジェクトは、新しい材料と新しい製造技術を結びつける挑戦です。この研究を土台として、次の段階では実際の高温環境での性能評価を進め、将来は航空機や発電設備で活躍する軽量・高効率な耐熱材料の実現に繋げたいと考えています。
皆様から頂いたご支援は、本研究に必要な金属粉末の購入、粉末の混合や積層造形の試作、さらに作成した材料の組織観察や特性評価に必要な消耗品や装置利用費として、大切に活用させていただきます。
私がクラウドファンディングを選んだ理由は、資金を集めることだけではありません。研究に共感してくださる皆様と、この挑戦を一緒に育てていきたいからです。研究の過程は成果を積極的に発信し、「材料が未来を支えている」という面白さを多くの方に知っていただきたいと考えています。
新しい材料づくりには近道はありません。試して、失敗して、また挑戦する。その積み重ねが未来の技術につながります。私たちの研究室では、自ら材料を設計し、作り、評価するところまで一貫して取り組み、学生たちも「世界にまだない材料を生み出したい」という思いで研究に挑んでいます。皆様のご支援が、その挑戦を前へ進める大きな力になります。未来の航空機やエネルギーを支える新しい耐熱材料を、ともに生み出していただければ幸いです。
多様なモビリティ(自動車、船舶、航空機、ロボット等)における今後益々の軽量化が重視され、併せて過酷環境下(例えば超高温下)の中でも長寿命化が実現できる材料開発が切望されております。一方で、航空機に代表される大型なモビリティーの材料開発・実用化においては欧米の独壇場となっているのが実状で、「素材立国日本」を堅持・発展するためにも当該分野(軽量耐熱材料)で日本発の革新的な設計原理を発信する必要があります。
軽量耐熱材料の実験研究では多額な研究費が要することも実状であり、ぜひともに本提案で多くのご協力を賜り、迅速な日本発の軽量耐熱材料の開発に繋げることが出来るよう強く希望しているところです。
御手洗先生は、長年にわたり日本の航空エンジンを支える耐熱材料の研究を牽引し、国の大型プロジェクトから産業につながる製造技術まで、幅広く挑戦を続けてこられました。今回取り組むのは、金属3Dプリンターを使って、より軽く、熱に強い新材料を生み出す研究です。実現すれば、航空機の軽量化や燃費向上、CO₂排出量の削減にもつながる、未来への大きな一歩です。
材料工学分野ではまだ数少ない女性教授として、次世代の研究者を育てながら新しい可能性を切り拓く御手洗先生の挑戦を、ぜひ多くの皆様に応援していただきたいと思います。
航空エンジンや宇宙分野を支える高度な材料開発は、得てして専門家や限られた産業界の中だけで閉じがちでした。今回、御手洗先生がクラウドファンディングという形で広く社会へ挑戦を発信されたこと自体に、まず大きな意義を感じています。
超高温や極限環境に耐える「耐熱材料」の進化なくして、次世代の航空機や宇宙開発、エネルギー技術の飛躍はあり得ません。表舞台で脚光を浴びる製品の陰で、決して破綻が許されない極限性能を根本から支える「最重要の基盤技術」こそが耐熱材料です。
未来の空や宇宙の安全・環境性能を根底から支える革新的な耐熱材料の誕生に、サポーターの一員として直接携われることは非常に魅力的な機会です。日本の耐熱材料研究の最前線をみんなで支え、共に未来のイノベーションを創り出すこの素晴らしい挑戦を、心より推薦いたします。
| Date | Plans |
|---|---|
2026年11-12月 |
シンプルなモデル合金について粉末購入・調整 |
2027年1-3月 |
積層造形・組織評価 |
2027年4-5月 |
上記結果を踏まえて、開発した合金について粉末調整 |
2027年6-7月 |
積層造形・組織評価 |
2027年8月 |
報告 |
ご支援いただいたお礼のメッセージをメールでお送りします。
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本研究に関するオンラインサイエンスカフェにご招待します。 当日ご参加いただけない場合でも、録画をお送りします。 開催は、2026年11月21日(土)11~12時を予定しています。
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金属組織のオリジナルポストカードをお送りします。 発送は2026年11月上旬を予定しています。
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オンラインもしくは現地での研究室ツアーにご招待します。 当日ご参加いただけない場合でも、録画をお送りします。 開催は、2026年11月23日(祝)15時からを予定しています。
*研究室の場所は柏キャンパス(千葉県柏市)です。現地参加の交通費は自費となります。
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本研究の成果を学会発表する際に、資料にお名前を掲載します。(任意) 発表後に、資料の掲載ページをお送りします。
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1時間程度のオンライン講演を実施いたします。(具体的な内容や日程は個別にご相談)
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