academistスタッフからの一言
宇宙の謎を解明するひとつの方法として、加速器を用いて粒子どうしを衝突させて、高エネルギー状態を人工的に作り出すという実験があります。しかし加速器そのものが大型であることから、実験を行うには膨大な時間がかかるため、研究者は研究を進めると同時に次世代育成を行わなければなりません。今回、茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構の西田准教授と中山助教は、高校生を対象とした研究者育成プログラム「Belle Plus」を継続的に進めることを目指して、クラウドファンディングに挑みます。
担当者:柴藤亮介
宇宙には、まだ解明されていない謎がたくさん残っています。そのカギを握る加速器を使った実験では、宇宙の創世記に近い高エネルギー状態を人工的に作り出し、未知の素粒子を発見することを目指しています。
茨城県つくば市にある研究施設・高エネ機構(KEK)で行っているBelle II実験では、SuperKEKB加速器で生じる大量の素粒子反応データを蓄積、解析を行います。前身であるBelle測定器の50倍のデータを収集し、粒子・反粒子の対称性の破れや、新しい物理法則を探究します。大量の実験データが可能にする精密な測定により、未知の素粒子によるわずかな影響も見逃さずにとらえることができます。この実験から、「宇宙から反物質がなぜ消えてしまったのか?」「暗黒物質の正体は何なのか?」という、現代科学に残された謎の手がかりが得られるかもしれません。
加速器実験には、運転前の建設期間を含めて15年以上の長い年月がかかります。そのため、実験と同時に次世代の育成も進めていかなければなりません。私たち研究者は研究の合間を縫って、高校生や大学生に向けた科学教育にも熱心に取り組んでいます。
Belle IIグループでは、科学を志す高校生に最先端の素粒子研究を体験してもらうサイエンスキャンプ「Belle Plus」を2006年からほぼ毎年開催してきました。
Belle Plusでは、全国から男女合わせて約20名の高校生を4日間KEKに招待します。研究者と大学院生がつきっきりで指導しながら大学院生レベルの高度な実験を行います。さらに、高校生自身で結果をまとめて研究者たちの前で発表してもらうという、野心的なプログラムです。過去10回の開催のたびに改良を重ね、高校教諭からも高い評価をいただけるプログラムへと成長してきました。
キャンプを行う場所は、縦・横・高さが8メートル、総重量が1400トンの巨大「Belle II測定器」があるKEK。この測定器は、7種類の異なる素粒子センサーで構成されており、いわば巨大なデジタルカメラです。1秒間に3万回の超高速シャッターを切り、加速器で人工的に作り出した電子・陽電子ビームの衝突反応の様子を記録できます。世界最先端の素粒子実験の現場で、高校生たちは本格的な測定に挑みます。
Belle Plusでは、4つのグループに分かれて研究します。そのうちのひとつである「新粒子探索」班では、実際の実験で収集した素粒子の衝突反応のデータの中から、新しい粒子を探索します。BelleIIの前身であるBelle実験ではこれまで数多くの新しい粒子を発見してきましたが、参加者は、Belle検出器で記録された本物の素粒子衝突反応のデータの中から、粒子の探索を研究者とほぼ同じプログラムを使って行います。
Belle 実験のビーム衝突で生まれた重い粒子は、より軽い粒子に壊れていき、Belle検出器で捉えられます。この捉えられた軽い粒子の情報を組み合わせて、元の重い粒子が何かを調べます。2つの粒子に壊れる場合には比較的簡単なのですが、参加者の中には3つ以上の粒子に壊れた粒子や、壊れてできた粒子がさらに別の粒子に壊れたような複雑な過程で、新しい粒子を探す生徒もいました。これまで、未知の粒子を見つける大発見…はありませんでしたが、Λc(ラムダシー)という珍しいバリオン(陽子の仲間)を発見した生徒もいました。
この粒子、Belle実験の研究者でも見つけるのは大変な珍しい粒子で、高校生が見つけるとは研究者も思っていなかったので、うれしい驚きでした。今回、また何か別の粒子を高校生がみつけるかもしれません。
住んでいる場所や、家庭の経済状況によらず、科学を志す高校生にはチャンスを与えてあげたい。そんな運営メンバーの思いから、Belle Plusに参加する高校生には、KEKまでの旅費・滞在費を、居住地によらず全額サポートしてきました。東北や九州、沖縄や北海道、石垣島などの遠方からも参加者が集まることで、高校生たちの新たなつながりも生まれています。
しかし、国の昨今の科学技術関連予算の削減により、Belle Plusの運営予算の確保が難しくなっています。半額の予算で行った去年は、やむを得ず近郊からの参加者に絞らざるを得ませんでした。全ての高校生に平等なチャンスをとの思いが込められた Belle Plusは存続の危機にあります。長い年月をかけてさまざまな宇宙の謎を探求する素粒子実験には、その探究の道筋を途絶えさせないためにも、次世代の育成は不可欠です。Belle Plusは、未来の研究者を発掘し、育てる絶好の機会であるといえます。
厳しい予算状況ではありますが、今後も高校生への全額サポートを続けられるようにしたい。そういう思いから、今回のクラウドファンディングの挑戦を決めました。皆さまから頂いたご支援は、全国各地から集まる高校生の旅費・滞在費の不足分に充てさせていただく予定です。ぜひ、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。
西田昌平:Belle2の前身の Belle実験の比較的初期のころから、この実験に携わっています。現在は、Belle2測定器の中に入れる装置の一つを作っているところです。巨大な実験装置を使って、小さな素粒子の世界を覗き見ることができるのが、面白いところです。日本はこの分野で世界の最先端を行っているのですが、高校生にもその研究を体験してもらおうと、夏のキャンプBellePlus を10年前にはじめました。京都生まれの京都育ちでしたが、つくばに引っ越して早15年。最近は家の庭に果樹園を作ろうとちょっとだけ奮闘中。<br><br>中山浩幸:世界中の700人以上の研究者たちが力を合わせるBelle2実験では、小さな素粒子について詳しく調べることで、宇宙誕生の謎を解き明かすことを目指しています。私の担当は、二つのビームがぶつかる衝突点付近の設計やシミュレーションで、ヘルメットをかぶって実験ホールで作業したり、海外とのネット会議で議論したりする毎日です。共働き子育て中。東京からつくばまで毎日長距離通勤しています。週末、2人の子供(5歳・2歳)と一緒に思いっきり遊ぶのが一番の楽しみ。
以下のスケジュールで研究を進めていきます。
2017年6月1日〜7月10日 | クラウドファンディング挑戦 |
2017年8月7日〜10日 | Belle plus開催 |
2017年9月3日 | 開催報告会 |
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